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こんなに愛しいと思っている女が梨香子じゃなく、俺の知らない遥菜という女なのだろうか──。
できれば、今日オフィスに来た女が、嘘をついていてほしい──。
免許証を見せられても、心の中でそう願ってしまう。
俺はベッドの端に寄っていた彼女を引き寄せた。
そのまま腕の中に閉じ込める。
「理人さん……?」
彼女は腕の中から戸惑うような瞳を向けて俺の名前を呼んだ。そして俺がゆっくりと顔を近づけると、静かに瞳を閉じた。
このまま真実を追求せずに、彼女を抱いてしまえば今のこの幸せが続くはずだ。俺は心の中でどうすることが一番正しいのかと葛藤していた。
俺が何もしないからか、目を閉じていた彼女が再び目を開けた。
彼女が俺を見つめる。
その瞬間、俺は確かめずにはいられなくなった。
「遥菜……」
彼女の目が大きく見開く。
やっぱり……、やっぱり遥菜なのか……。
うそだよな……、違うよな……。
じっと顔を見つめる。
「いっ、今………」
「遥菜……、なのか………?」
俺は確認するように、もう一度名前を呼んだ。
彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れ始めていた。
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