最終話 それぞれの冬

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 ない物ねだりというか、手に入れるのが困難であればあるほど、余計に欲しいのである。  まして、同じ宮殿で毎日顔を合わせることの出来る第一皇子であるならば、心底、妃に就きたいのだ。  それも第二の妃ではなく、正皇妃でなければ満足しない。  しかし、それもこれも綾乃がいるかぎり叶わぬ大望である。  ダルゾットをどうかしようなどとは考えていない。  子供に罪はないのだ。  要するに綾乃がいなくなるか、キランの心がミミールに向くか、どちらかだ。  彼女は小さな瓶を掲げて言う。 「ねえ、ダリー。この液体、きれいでしょう」 「はい、きれいな琥珀色をしています」 「これはね、わたしの望みを叶えてくれる大切な薬が入っているのよ。ほんの二、三滴で事足りるほど強力なの」  侍女は不思議そうに、その小瓶とご満悦な表情をしているミミールを、交互に見比べていた。  そこに力強いノックの音が続けざまに二度聞こえて、二人は扉に注意を移した。 「キランお兄さま!」  ミミールは、あわてて小瓶をサイドテーブルの引き出しに隠し、ベッドの上から下りて出迎える。 「少し、話があるのだが――」  ダリーが静かに部屋を退去するのを確認したキランとミミールは、テーブルを挟んで向かい合わせに椅子に腰かけた。 「この二ヶ月間、淋しかったわ。わたしもお話がしたかったのに、キランお兄さまはいつも忙しそうで、ゆっくり顔を見せてくれないんだもの」 「ミミールはデューイが嫌いか?」 「……」  ちょっと口惜しそうに彼女は下を向いた。 「あいつは優男でおまえをきっと幸せにするだろう。おれは良い縁談だと思っている。大公も乗り気でいるのだ。何が不満なんだ」  琥珀色の巻き毛がかすかに震え、開いていた両手をぎゅっと握った。  なんてひどい事を言うんだろう。  彼はもっと人の心を気遣う人だったのに、こんな冷たい言葉を言うなんて……。  ミミールの気持ちを知っていながら、他の男のもとへ嫁げと言うなんて……。  そんな人じゃなかった。 「キランお兄さまは……わたしをこの宮殿から追い出したいのね」 「何を言ってる」  怒ったように言い返す。 「そうなんでしょう。デューイと婚姻すれば、ずっと北にあるロマンロランの城で暮らすことになるのよ。わたしが邪魔なのよね、キランお兄さまは」  彼は深い溜め息をついて、深々と椅子に座り直した。
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