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3.視線
辻正樹は一人公園でぼうっとしていた。
「薫、仇は取ったよ」
そう呟く。辻は牧野美咲の元恋人であり、彼女の兄に両親を殺され自ら命を絶った井上薫の恋人であった。美咲に差出人不明のメールを送り続けたのは彼だ。元々気付いていたのだ。数か月前、美咲が店番をする店の前を通った時の彼女の異常な視線に。薫を怖がらせないよう気付かないフリをしていただけだ。
事件後、すぐに悟った。あの愚鈍な兄を唆したのは美咲に違いない、と。
「俺があの時警告していれば……」
どれだけ後悔してもしきれない。薫は自ら命を絶ってしまった。自分も後を追おうとすら思った。そんな時、美咲をカフェで見かけた。彼は思った、これは千載一遇のチャンスだと。薫の仇を討つチャンスなのだと。
その時の美咲はいかにも誰かと待ち合わせをしている様子だった。チラチラと周りに視線を彷徨わせている。物陰に隠れしばらく様子を見ていると同じようにキョロキョロしながらカフェに近付いていく男がいた。正樹はその男に声をかけた。ひょっとして待ち合わせですか、と。そして美咲の特徴を告げると男は頷いた。正樹はこう告げた。すみません、今日は行けなくなったと伝言を頼まれたんです。これはお詫びとのことです。そう言って男に万札を一枚握らせた。カフェと男の間に立って彼女の姿が見えないよううまく背中で隠しながら。男は複雑な表情で帰っていった。
後は簡単だった。コンビニで買った封筒に金とメモを入れその辺にいた女子高生にアルバイトだと言って五千円渡し、美咲に封筒を渡させた。封筒の中身を見て怪訝そうな表情を浮かべる美咲を見て正樹は薄く笑う。後はメールで追い討ちをかけるだけ。もちろん彼女のメールアドレスは知っている。フリーメールのアドレスから送ればこちらの身元がバレる心配はない。正樹はアドレスを変えつつ何通もメールを送った。その結果、牧野美咲はノイローゼとなり今では自宅に軟禁されているという。
「仇は取ったんだ」
スマートフォンの待ち受け画面で微笑む薫の画像に向かいそう呟く。ふと、視線を感じて振り向いた。遠くから彼をじっと見ている中年女性がいる。見たことのない顔だ。正樹が首を傾げると女性は立ち去った。何だか不気味に思っていると手の中のスマートフォンが震えてメールが来たことを告げる。メールにはこう書かれていた。
――ユルサナイ
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