公園沿いのお弁当屋さん

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「設楽さん、大丈夫ですか?」 泉は殴られたらしい左頬を押さえながら、こちらを睨んでいる。 「ん、大丈夫……」 少なくとも、殺られてはいない。 犯られたけど。 「こいつ、前のストーカーですよね。俺、警察に連絡します」 「いいよ、ちょっと待って」 「でも設楽さん……そんなことされて————」 史人は海人の顎を掴むと、キスで口を封じた。 海人は目を見開き唇を固く閉じていたが、舌で突いて催促すると、おとなしく口を開けた。 「ん……っ」 舌を絡ませると、強張っていた体がほぐれ、目をとろんとさせながら応じてくる。 泉はじっとこちらを見つめている。 史人はそれを横目で見ながら、さらに続けた。 いつのまにか海人のほうから舌を入れてきて、かぶりつくようなキスを返されていた。 「史人。誰だよ、それ……」 泉の言葉にようやく唇を離し、そのまま海人の腰に手を回した。 「誰って、恋人ですよ。ね、海人?」 海人は驚いたように目を見開いたが、腰に回した手に力を込めると、ぎこちなく頷いてくれた。 「嘘、なんでだよ」 「嘘って……。あなたと付き合いたいとか、離婚してくれなんて言いました?」 「でも————」 「帰ってください。それとも、暴行罪で訴えられたいですか?」 「史人……」 きつく言うと、泉はようやく起き上がり、たどたどしい足取りで帰っていった。 彼の姿が見えなくなると、史人は長い息を吐いてから腰に回した手を解いた。 「合わせてくれて、ありがと」 史人はネクタイを締め直し、乱れたシャツを手早くパンツの中に押し込んだ。 「平気ですか……? あいつ、ありえない。無理やり設楽さんのこと————」 「あー。大丈夫、大丈夫。俺も1回イッたから」 「なんだよそれ。それがなんで大丈夫なの? どういう理屈だよ……」 海人はなぜか自分のことのように苛立っていた。 じっと見つめると、目を泳がせて頭をかいた。 状況ばかりに気を取られているのか、下半身が反応していることに、自分自身で気づいていないようだった。 おそらく、先ほどのキスでそうなってしまったのだろう。 「ごめんね、変なことに巻き込んで……」 そっと海人の手を取ると、慌てたように顔を上げた。 「いや、俺も出がけにもたついて……もう少し早く来てれば————」 大きな体を丸めてしょげる姿が可愛くて、その純真を摘み取ってしまいたい衝動に駆られた。 綺麗なものは汚したいし、純粋に輝く瞳は絶望で濁らせたい。 そんな自分の悪癖が、のちに災いとなって振りかかってくることなど百も承知なのに、どうしてもやめられない。 「ちゃんと……責任、取らせて?」
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