公園沿いのお弁当屋さん

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「すごいじゃん。しかもみんな可愛いし」 「あまいな史人は。既婚者のオッサンばっか相手にしてるとわかんないだろ。女はなー、写真を盛るんだよ。しかも自分だけ」 優太は手のひらを突き出し、得意げに左右に振った。 「どうやって見破るの?」 「SNSのアカウント交換したら、本人の友達のアカウントまで調べて写真探すだろ? で、複数調べて本当の顔がわかったら会う」 そこまで聞いて、史人は思わず吹き出した。 「……ただの男のプライドの戦いのわりには、すんごい手間かけてんじゃん」 「うっせ。どうせやるなら可愛い子がいーだろ」 史人はため息をついて座り直した。 清々しさすら漂う、このクズっぷりが好きだ。 自分と似ていて安心する。 すると、足元に放っておいたスマートフォンが震えた。 ——海人からだった。 「さっきの人って、本当に彼氏じゃないんですよね?」 さっきの人とは、おそらく優太のことを指しているのだろう。 史人は思わず笑ってしまった。 「ただのルームメイト。あいつは今、出会い系サイトで女の子漁ってるよ」 そう返信すると、今度は背後から優太が画面を覗き込んでいた。 「誰? うみんちゅ? なによ、なんだよ、楽しそうじゃん」 史人は思わず胸元にスマートフォンを寄せて画面を隠した。 「見んなよ」 「いーじゃん。もうまじで付き合っちゃえよ。なんか真面目そーないい子じゃん。ちっとはお前も浄化されるんじゃね?」 「人を汚物みたいに言うなよ」 汚物ー!! 優太は床を叩いて大笑いしている。 史人はそれを無視して、スマートフォンを見つめた。 「よかった。彼氏じゃなくて」 海人からの返信を受け取り、ため息を吐いた。 そう、自分は人間の皮を被ったヘドロで、真面目に人と向き合うことのできない、不完全な人間で———— 「なにがいいんだかねー。こんなクソ人間のさ」 すると優太はようやく笑うのをやめて、ふたたび体を起こした。 そして史人に向き合ったかと思うと、演技がかった声でこう言った。 「……」 羞恥の巨石が落ちてきて、史人を容赦なく潰した。 「お前、殺すぞまじで!」 史人は立ち上がり、優太の尻に蹴りを入れた。
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