公園沿いのお弁当屋さん

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電話を切って背後を見る。 「ついてくるなよ!」 力いっぱい叫ぶが、泉には響かない。 なにを言っても無駄だと諦め、史人はふたたび前を向いた。 その瞬間、カウンター越しの海人と目が合ったが、史人は反応する余裕もなく、ふたたび角を曲がった。 「史人!」 だんだん足がもつれてきた。 いっそのこと、会社に入ってしまおうか。 ふたたびビルが見えてきたところで思ったが、逃げ込んだところで、エレベーターで捕まってしまうだろう。 運良く逃げ切れたとしても、オフィスまで乗り込んできかねない——そんな気迫があった。 ふたたび会社を曲がり、公園方面へと走った。 もうだめなのだろうか。 きっと公園前あたりで捕まって、背後からナイフで刺されるんだ———— 諦観しかけながら、「デリカッセン縞野」の前まで来た時、咄嗟に左腕を引かれた。 思わず声が出そうになったが、その相手は泉ではなかった。 「こっち、下隠れて」 ——海人だった。 史人は言われるがままカウンターの裏に回り、しゃがみ込んだ。 腕を引かれた時、泉はまだブロックを曲がってきていなかったはずだ。 たぶん、大丈夫……。 深呼吸を繰り返しながら、隣に立っている海人を見上げた。 彼は顔色ひとつ変えずに外を見ている。 しばらくすると、視線は前をキープしたまま、小声で言った。 「……行った。今のうちに上がって。奥に休憩スペースあるから」 「え?」 「ずっとウロウロしてたから、また戻ってくると思う。早く」 史人は調理場を抜けて、奥の部屋へと入った。 揚げ場に、園部が言っていたらしきおばちゃんがいたが、こちらには気づかなかったようだ。 足がガクガクするのは、疲労だけのせいじゃないだろう。 部屋は、スタッフルームというよりは普通の民家の居間のようだった。 畳にちゃぶ台、砂壁。 液晶テレビがなければ、昭和にタイムスリップしてしまったのかと、思わず錯覚してしまいそうな内装だった。 畳に腰を下ろすと、いぐさの香りがふんわりと立った。 安堵のため息をひとつ吐いた瞬間、額から汗が伝う。 手に持ったままだった袋をそっと開けて中を覗いてみると、チキン南蛮は衣が剥がれて右端に寄り、万能ネギは散乱して弁当の蓋にひっついていた。 「かーちゃん。俺、休憩入るから。とーちゃんに店番代わるように言って」 調理場から声がして間もなく、海人が顔を出した。 「危なかったですね、さっき」 「ああ、ありがとう……」 「俺も昼休憩だから、よかったら部屋来ません? ここだと落ち着かないでしょ」 お茶くらい出しますから、と言った。 あれだけしつこい泉のことだから、まだ会社付近をうろついているかもしれない。 史人は急に気弱になってきて、彼の後をついていくほかなかった。
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