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2階にある海人の部屋は、ベッドと小さなテーブルがあるくらいで、綺麗に片付けられていた。
整理整頓が好きというよりは、部屋であまり過ごしていないゆえの清潔さという感じだ。
適当に座るように言われたので、床に座り、テーブルに弁当を置く。
しばらくすると、海人はペットボトルのお茶2本を脇に抱え、自分の昼食らしきカップラーメンのふちを持ちながら現れた。
「ここの息子さんなんだね、君」
「そうですよ。つい最近大学を卒業したんで、今は店を手伝ってるんです」
答えながら、ペットボトルを差し出してきた。
史人は受け取り、ひと口飲んだ。
「……継ぐの?」
「いや、とりあえず就職先決まってるんで、当分はないかな」
どっかりとあぐらをかいて、こちらを見た。
こうして横並びに座ると、思いの外、体格がいい。
彼がカップラーメンの蓋を開けたのを見て、史人も割り箸を割った。
「大学って、何学部?」
「ふつーに経済学部ですよ。なんで?」
麺を啜り切ってから顔を上げた。
髪が汗で額に張り付いている。
「美容系の学校行ってるのかなって。髪がさ……」
「あー、これ? 美容師の友達のカットモデルしたら、こんな色にされちゃったんです。頭皮痛くってハゲるかと思った」
されるがままのわりには、しっくりと馴染んでいる。
今っぽい、甘い顔立ちだからだろう。
プラスチックの蓋を開けると、海人はそれを覗き込んで悲観めいた声をあげた。
「あー、おべんと、ぐちゃぐちゃになっちゃったねー」
「……味は一緒だから」
言いながら、付属のタルタルソースの封を切った。
どこからでも切れます、と書いてあるのに、どこからも切れない。
力を込めるが、端の部分が一部だけ切れただけだった。
「さっきの、なんか訳ありですか?」
「え?」
海人が箸で麺を持ち上げたまま、こちらを見る。
麺から湯気が剥がれ落ちるように立った。
「店の前、グルグルしながら逃げ回ってたでしょ。追いかけてくる相手もしつこそうだったし……」
「別に訳ありってわけじゃないんだけど」
2度ほどセックスしたら相手が本気になってこじれまして、とでも言ったほうがいいだろうか。
別にこの青年に知られたところで、痛くも痒くもないのだ。
タルタルソースを絞り出しながらふと頭をよぎったが、開封口が小さすぎたのか、なかなか出てこず、そっちに気を取られた。
つい開封口を上にして見つめながら、ふたたび圧迫してしまった。
「あっ……」
——運悪く、そのタイミングでソースが飛び出し、史人の顔面を直撃した。
眼鏡や唇の端、頬などに白いそれが飛び散る。
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