2 小林さんとの出会い

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2 小林さんとの出会い

僕が小林さんと初めて出会ったのは、病院でのこと。入院先の病院で何人かいた僕の担当看護師のひとりが小林さんだった。小柄で、いかにも看護師さんらしくテキパキとした所作、そして病める人を優しく包むような微笑みと明るく穏やかな話しぶりで、どんな人が入院しても好印象を抱くであろう、そんな看護師さんだった。 僕は今いる法律事務所に入所して3年目の春、心を病んだ。仕事(というか自分の将来というか)に悩んで精神的なバランスを崩し、仕事に行けなくなってしまった。山形の実家に帰る気にもならずひとり鬱々とした日々を過ごしていたのだが、心を病んだ人間にひとり暮らしをさせておくのは危険だとされ、総合病院の精神科病棟に入院することになった。 85711bbb-5769-4ecd-a500-99bf96112bd9 精神科病棟には、一見健康そうな、どうして入院しているのかわからないような人もいれば、急に激高したり、前触れもなく泣き叫んだり、明らかに一般的な社会生活は送れなさそうな人もいた。僕はただただ沈んでいて、いつも視界に霞がかかっているような状態で、最低限の生理現象をこなしながら視線を天井やら窓の外に放り投げることだけに時間を浪費していた。小林さんのことも、他の人と同様、しばらくは霞の先にある色も香りもしない景色のなかの物体のひとつに過ぎなかった。 生きることにどんな意味があるのか。どんな理由が、価値があるのか。淀んだ意識のなかで、そんな問いが浮かんでは沈む、それだけの日々を過ごしていた。
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