7 退院

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7 退院

 結局、入院生活は3ヶ月ほどだった。テレビも新聞も見ず、世間の情報を遮断して、いくつかの心理テストとカウンセリングを受け、処方された薬を飲み、与えられたものを食べ、その他にはこれといってすることもなく、多くの時間を横になって過ごした。  主治医の先生は、たまに顔を見に来る程度だった。もともと僕が入院することになったのは衝動的な行動を起こすおそれがあったからであり、主治医の先生からすれば、病院という管理された空間の中に閉じ込めておきさえすれば、あとは特に何かをする必要はなく、時間とともに落ち着いていくはずだと踏んでいたのだろう。  丸井先生からいただいた労働法の本はあまり読む気になれなかった。本を開くと日常が戻ってくる気がした。  「ご退院おめでとうございます。良かったですね。だいぶ元気になりましたね」  「ありがとうございます。3ヶ月もいると退院するのが寂しいですね。小林さんとお話することもなくなっちゃうんだな・・・」  でもずっと病院にいるのはつまらないでしょう? 小林さんはそう言うといたずらっぽい笑みを浮かべた。 6b744ea7-a37c-4b9c-aa42-855ef4a8da81  病院を出ると、とたんに夏の熱気が全身にまとわりついた。入院したのは桜の花が散る頃で、以来、屋外に出たことはなかった。一気に汗が噴き出す。コンビニに行きたくなった。
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