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1 あいまいでたったひとつのもの
知人と友人、友人と恋人との境界なんて、あってないようなものだ。
人と人との親密さの度合いはグラデーションのようになっていて、「知人のような恋人」とか「恋人のような知人」というのはあまりないかもしれないけれど、「友人のような恋人」とか「恋人のような友人」なんて関係性はたくさんありそうなものだ。
もっと言うと、自分が恋人だと思っていた相手はこちらのことを友人としか思っていないかもしれないし、自分が知人のひとりとしか思っていない誰かにとって、自分は大切な友人のひとりなのかもしれない。
「あなたは私の友人だよね」「僕は君の恋人だよね」と、お互いが相手のことをどう思っているのか言葉にして確かめるなんていうことは、大人になると、しないことのほうが多いのではないだろうか。
それに、一口に恋人といってもその関係性は人の数だけあると言っていいはずだから、僕にとっての「恋人」と君にとっての「恋人」が同じ意味であること、同じような親密さを示していることは、むしろ、ないといったほうが良いのだと思う。
そう考えると、ある人間関係をひとつ取り出して「友人関係」「恋人関係」などという言葉でくくってみたところで、ほとんど意味はないということなのかもしれない。
そう。あるのは「恋」や「友情」ではなく、ひとりの人間ともうひとりの人間のあいだにつくられるたったひとつの関係。それだけなのだ。
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