14.君と私

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 午後七時。  定時を過ぎたオフィス内には、残業をこなす社員たちがまばらに残ってはいるものの、日中ほどの騒がしさは無い。  明希もまた黙々と仕事に取りかかりながら、手元の時計をちらりと見た。  今日は昼間のこともあってなんだか気疲れしたから、できるだけ早く家に帰りたい。でも、今日のうちに今やっている仕事を片付けてしまいたい気持ちもあって、明希は悩みながら椅子に座ったまま大きく伸びをした。 「あー、疲れたぁ……あまっあまのラテが飲みたいー……」  近くに人がいないのをいいことに、明希は目をつぶってひとりごちた。社内の自販機にもミルクコーヒーなんかは売っているけれど、今はコーヒーショップの甘ったるいラテが飲みたい気分なのだ。しかし、今から外に買いに行くほどの時間は無いし、疲れているからそんな気力も無い。  仕方ない、自販機で我慢するか。  そう思って明希が財布を片手に立ち上がるのと同時に、社外に出ていた立岡が三課に帰ってきた。 「立岡くん! お疲れ、新店舗はどうだった?」 「はい、問題ありませんでした。定番商品はすでに一通り置いてくださってましたし、今度の新商品はエンド陳列するって約束までしてくれました!」 「ほんと!? やるじゃん! そこの店舗は立岡くんに任せるから、異動するまでは引き続きよろしくね」 「はいっ!」  元気よく返事をする立岡に、自然と明希の口元に笑みが浮かぶ。この調子なら、明希の元を離れてもきっとうまくやっていけるだろう。 「あ、それと……中里先輩、よかったらこれどうぞ」  そう言って立岡が差し出したのは、まさに今明希が欲していたコーヒーショップのホットラテだった。見た目からは分からないけれど、きっと糖分たっぷりの甘々ラテだ。 「わー! ありがとう! 今ね、ちょうど飲みたいと思ってたの!!」 「ふふ、そうだと思いました。ミルク多めで、バニラシロップも追加してあります」 「うわ、完璧すぎる……立岡くん、私の頭の中覗いた?」 「覗けるものなら覗きたいんですが、さすがに無理です」  軽口を叩いて笑い合ってから、ありがたくラテを頂こうと紙製のカップを手に取る。すると、カップの側面に黒のマジックペンで書かれたようなメッセージが見えた。  店員さんが何か書いてくれたのかな、とうきうきしながらメッセージが読めるようにカップを回すと、そこには見慣れた文字でこう書かれていた。
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