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「は、初めまして! これからお世話になります、立岡 純といいます!」
はきはきと元気よく挨拶をした男の子は、真新しいスーツにシンプルな紺色のネクタイを締めた格好で、明希に向かって深々とお辞儀をした。
その姿を呆然と見つめていた明希は、岩村に小突かれてからようやく「初めまして」と戸惑いながらも挨拶を返す。
「えっ……もしかして、アシスタントになる……?」
「はい! ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、精一杯頑張ります! よろしくお願いします!」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
立岡につられて同じくらい深々と頭を下げると、そのやり取りを見ていた岩村が豪快に笑う。
「中里ぉ! お前、女子社員が来ると思ってただろ!」
「えっ!? あ、えっと、はい、勝手に女の子だと思ってました……」
「まあ、うちの会社はただでさえ女子社員の方が多いしなぁ。アシスタント希望者も大体女子だし。でもな、立岡は自分からお前のアシスタントに立候補したんだぞ!」
え、と小さく声を漏らすと、立岡は照れ臭そうに頭を掻いた。
「あの、僕、会社説明会に参加したとき、中里先輩のお話を聞いたんです。それがこの会社に入りたいなって思ったきっかけだったので、中里先輩のいる三課でアシスタントができるって聞いて、ぜひそこで働きたいと思いましてっ」
たどたどしく経緯を説明してくれた立岡に、明希は目を丸くする。
一年ほど前、明希は就活生向けの会社説明会で先輩社員の一人として話をした。確か、一日の業務の流れや仕事のやりがいなど、ごくありふれたことを喋った覚えはある。
「こんな熱い思いで仕事をしてるんだなあって、僕、感動したんです! またお会いできて嬉しいです!」
「え、そ、そうなんだ」
「はい! これからお世話になりますっ」
また深々と頭を下げた立岡に、明希はぎこちない笑みを零す。
明希の話に感動したという立岡だが、正直なところそこまで人の心に残るような良い話をした覚えは無かった。それどころか、人事でもないのに会社説明会に繰り出されることになって面倒だとすら思っていたのだ。
でも、きらきらとした尊敬の眼差しでこちらを見つめる立岡に、まさかそんなことを言えるはずがない。明希は話を逸らすように立岡に向かって右手を差し出した。
「私もまだまだ半人前だけど、精一杯指導するから。よろしくね、立岡くん」
「は……はい! よろしくお願いします!」
やる気に満ちあふれた様子の立岡は、差し出された明希の右手を両の手でぎゅうっと握りしめた。その力が思った以上に強くて、明希は苦笑いをこぼす。
「た、立岡くん? 張り切るのはいいんだけど、もうちょっと手加減してくれるかな」
「え? ……あっ、す、すみません! 痛かったですか!?」
「ちょっとね。取引先の人ともたまに握手することはあるから、その時はもう少し優しくしてね」
やんわりと注意すると、立岡の頬がうっすらと朱に染まる。
純度100パーセント、という言葉が彼にはしっくりくるような気がした。初々しさの塊のような男の子だ。
とりあえずやる気は十分あるようなので、あとはどの程度仕事を任せられるようになるかが問題だ。部長に直談判してくれた岩村のためにも、すでに自分を「先輩」と慕ってくれている立岡のためにも、丁寧に指導して早く一人前の社員になってもらわなければならない。
「よし。それじゃあ早速、他のメンバーにも紹介するか。付いてこい」
「はいっ!」
岩村の言葉に、明希と立岡は同時に返事をした。
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