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2.大都会とべっこう飴
立岡が三課に配属された翌日、明希のデスクの隣には真新しいデスクとオフィスチェアが置かれることになった。
出社後、部屋の隅にあるロッカーの上に荷物を置こうとしていた立岡に手招きをすると、彼はまるで飼い犬のように素早く明希のもとへ走ってやってくる。
「ここ、立岡くんのデスクね。隣は私だから、何かあればいつでも声かけて」
「えっ……僕が使ってもいいんですか?」
「もちろん。机がないと仕事にならないでしょ? 文房具とか書類とか置いていってもいいけど、あんまり散らかさないようにね。岩村さんみたいに」
「あぁん!? なんか言ったか、中里ぉ!」
「なんでもありませーん」
書類の山からひょっこりと顔を出した岩村のデスクは、コピー用紙や筆記具、ぐちゃぐちゃになった付箋でいっぱいになっている。いつだったか、お昼用にと買ってきたらしいパンを引き出しの中に放置して腐らせたときは「小学生男子みたいなことしないでください!」と明希が怒鳴ったことさえあった。
その事件を立岡にも話すと、彼はぷぷっと小さく吹き出してから慌てて口を押さえた。岩村に怒られるとでも思ったのだろうが、当の岩村自身はすでに仕事に集中しているので聞こえていないようだ。
「それじゃあ、午前中は社内の備品の置き場所とか使い方を覚えてもらおうかな。説明するから付いてきて」
「はいっ!」
元気いっぱいな立岡の返事に明希は思わず苦笑した。ぴっかぴかの新入社員らしい振る舞いの立岡を、三課の他の社員も微笑ましく見守っている。舐めた態度をとられるよりずっといいのだが、鼻息を荒くして張り切っている立岡にいささかプレッシャーを感じるというのも明希の本音だった。
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