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14.君と私
「おい、中里と立岡ぁ! お前ら二人に話がある、昼メシ食ったら会議室に来い!」
上司である岩村にそう呼び出されたのは、昼休憩に入ってすぐのことだった。
立岡の転勤の噂を聞いてからはや一週間、そのうち岩村から直々に話があるだろうと覚悟はしていたものの、いざその時がやってくるとなると自ずと表情が強張る。そっと立岡の方を窺うと、彼もまた緊張した面持ちで明希の方を見つめていた。
「……とうとう来たね」
「は、い……」
「私も呼ばれたってことは、もう新しいアシスタントが決まってるのかな。あー、なんかドキドキする」
胸に手を当てながら息をつく明希に、立岡は複雑そうな眼差しを向ける。
とにかくご飯食べようか、と明希がコンビニおにぎりの封を開けると、立岡も同じようにビニール袋からおにぎりを取り出した。
二人でそれをもくもくと食べていると、向かいの席に座っていた松原がちらりとこちらを見た。何を言うわけでもなくただ心配そうな視線を寄越す松原に明希は苦笑して、黙って頷きを返す。
──大丈夫。たとえ距離が離れたとしても、私たちの関係は変わらない。
心の中でそう自分に言い聞かせると、少し気持ちが落ち着いた。
隣で見るからにそわそわしている立岡にも「大丈夫だよ」と声をかけると、彼は今にも泣きそうな目をしながらぎこちなく頷いてみせる。
立岡が三課に来たばかりの頃、ミスをやらかしては今と同じような顔をしていたことを思い出して、明希は思わずぷっと吹き出してしまった。
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