14.君と私

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「……あれっ? あ、あの、岩村さん」 「あ? なんだよ」 「僕、転勤になるんじゃないんですか? 仙台支店の方に……」 「はあ!? そんなこと書いてねえだろ、よく読んだのか? 立岡、お前は四月から営業一課に異動だ」 「え……えええっ!?」  二人揃って素っ頓狂な声をあげると、岩村は苦い顔で耳を塞ぎながら「お前ら、さっきからやかましい!」と怒鳴った。  慌てて明希も立岡の手にした書類を見てみると、そこには確かに「営業部第一課に異動とする」との文字が書いてある。「仙台支店」のせの字も無い。 「ええっ!? な、なんで? だって岩村さん、立岡は宮城に行かせるとかって……!」 「はあ? だから、営業一課に異動だろ? 一課の宮城は俺と同期だからな、よろしく頼むって言ってあるから安心しろよ」 「ま、まさか……宮城って、一課の宮城(みやぎ)課長のことですか!? 宮城県の仙台支店じゃなくて!?」  明希が前のめりになって尋ねると、岩村は渋面を作りながら「当たり前だろ」と短く答えた。それから、急に真面目な顔をして立岡に言葉をかける。 「一課は取り扱う商品も取引先も違うし、三課みたいに緩い雰囲気じゃないからな。それに今度からは、丁寧に尻拭いしてくれる先輩もいないんだぞ」 「は……はい」 「それでも俺は、立岡なら立派な営業になれると思ってる。だから、アシスタントはもう卒業だ」 「岩村さん……」 「もしお前が何かやらかしたら、教育係の中里の評判まで落とすことになるんだからな。一課でも、しっかりやれよ」  それだけ言うと、岩村はぽんぽんと立岡の肩を叩いて出口の方へ足を向けた。 「……あ、そうだ。中里、お前には申し訳ないんだが」 「へっ?」 「立岡の代わりのアシスタントだが、まだ見つからねえんだ。だからまた、新入社員が入ってきたらお前んとこに預けようかと思っててな。それまでは自分でなんとかしてくれ」 「は……はあっ!? それって、また事務作業も全部一人でやれってことですか!? ていうか預けるって、保育所じゃないんだからっ……!」 「はっはっは、悪いな! 俺も手伝えるときは手伝ってやるから! じゃ、午後もしっかりやれよ!」  そう言い残して、岩村はそそくさと逃げるように会議室を後にした。  残された二人はしばしの間茫然とそこに佇んでいたけれど、午後の仕事もまだたっぷり残っていることを思い出し、慌てて自分たちのデスクへ戻ることにした。
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