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「お前は、本当に物をねだらぬからな……此方が贈らねば着た切りだ」
少し呆れる様な、優しい声に錦は気恥ずかしい。
「だって……一刀が良い物をくれるから、ずっと着られるし……」
苦笑いを浮かべそう言う錦へ、一刀も軽く頷くと。
「確かに。物を粗末には出来ぬが、お前は后妃だ。民の前に出る時は、華があらねばならぬでな……次の公務の際は其方を」
公務。そう、錦は、今では民の前へ姿を見せる公務へも臨める迄に成長した。本当に大きく変わったのだ。勿論、まだまだ完璧なものでは無い。未だに、其の公務の後は体調を崩す事も屡々。其れでも、全て一刀の為に。一刀恋しさに。
「有り難う、一刀……とても気に入りました」
錦の笑顔に、一刀も微笑む。丁寧に雪駄を箱へと仕舞う錦は、穏やかな空気に少し思い切ってみた。
「あ、あのさ、一刀……私、一刀に剣術指南を御願いしたなって……」
「指南……?」
一刀が僅かに眉を潜めた。一瞬怯んだ錦だが、一刀の手を取って。
「だって、一刀の剣術は見た事無いから……勉強したいんだ、お願いだよ」
懸命にねだる錦へ、一刀はまだ難色を示している。
「しかし……俺の剣術等……」
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