東の心の臓。

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 頷いてやることが出来ず、戸惑う一刀。一刀が主に使うのは居合術で、錦の思うだろう剣術と少々異なるものだ。しかし、其れ以上に己が刀を振るう姿等、錦へ見せたくは無いと強く思う。一刀は、此処でふと己への違和感に気が付いた。何故、此の様に思うのか、己の歩んだ道に後悔や否定があるのだろうかと。  黙り混み、己の中で様々な自問を巡らせていた一刀。落とした視線の先には、己の手を大切そうに優しく握る錦の手が見える。己の手は、此の暖かな手に相応しいのだろうか、そんな思い迄が過った時。 「駄目、なのかな……」  錦の落ち込んだ声が耳へ届き、我に返った。視線を戻すと、上目遣いに己を見詰める錦が見えた。気を取り直し、一刀は息を吐く。 「俺は指南等出来ぬ。そもそも、お前が刀を握る事も賛成していない」  優しく取られた手を、錦の膝元へと戻してやりながら其の願いは聞けぬと示した。此れに、錦は表情を曇らせる。 「でも……一刀は、やっぱり剣術も凄いんだろう……強くなりたいんだ」  其処を何とか、と上目遣いに一刀の顔を覗き込んだ。泣き所を突いてくる后妃へ怯み、軽い咳払い。 「己の程度がどの様なものか等知らぬ。よくよく考えてみろ、俺も一応育ちは坊なのだぞ」
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