東の心の臓。

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 都は漸く秋が来た頃だが、深雪の冬は早い。肌にあたる風は既に冷たく、日によれば、既に雪がちらつきだしていたのだから。 「――そなた等家族で最後か?」 「へぇ!後残ってるのは、お手伝い人かと」  笑顔で頭を下げる深雪の地の民、其の家族だろう者が後ろに付いている。妻だろう女性に、幼い兄弟が二人。厳しい冬が迫る深雪の地より、都の方へ移動する家族だ。夏の間に移動の手続きを順次済ませて、深雪には此の家族が最後だろう。男が口にした僅かに残る者とは、国が募集を掛けた雑用係。冬の間、刑事隊員達の生活を支える雑用が主な仕事で、かなり給金が良いのだ。故に、抽選となる程希望者は多い。  船へ乗り込む手続きを待つに飽き出した兄弟、退屈凌ぎにじゃれ合う其の姿に刑事隊員がふと微笑む。 「本日は、少々雲がある。本土迄の船旅は直だが、道中気を付ける様にな」  其の言葉に、男と妻が笑顔で頭を下げる。 「有り難う御座います。ほら、お前達も御挨拶だ」  父親へ促され、兄弟は刑事隊員へ確りと頭を下げて。 「刑事隊のおじちゃん、さようなら!」 「お風邪ひかないでね!」 「ああ。心遣い感謝致す、又春にな」  船へと乗り込む家族。再び丁寧に頭を下げる夫婦と笑顔で手を振る兄弟へ、刑事隊員達も思わず手を振り返してしまった。 「さぁ、先ずは明日より我等の住まいとなる貸家に冬を越す準備をせい」 「はっ!」  此処を仕切る刑事隊員の長が、ふと空を見上げた。頬にあたるのは、都では感じなかった冷たい風。 「今夜は、雪も多く降るな……――」  日を覆いだした雲を眺め、何の気無しに呟いたのだった。
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