東の心の臓。

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「しかしなぁ……無理は良くないぞ。人には、得手不得手があるんだから」  此の様な武道に関する鍛練には、今迄殆ど未経験で来た錦には、少々酷であると時雨は思っていた。何より、どう贔屓目に見ても素質ある様には見えないのだから。錦はまだ呼吸が整わないながらも、強く首を横へ振った。 「だって、以前みたいな、危険な事があったら……一刀、凄く心配するもん……私が、もう少し強ければ……」  思い起こされるのは、一刀の従兄弟である久遠の妻となった錦の従姉妹、葵を迎える春の事であった。政治に介入出来ない己は、両国間の不穏な状況に不安を募らせ、勢いで御所を抜け出し故郷へ向かってしまったのだから。其の件では、本当に皆を酷く心配をさせてしまったと反省している錦。東の治安維持部隊や、其れを指揮する霞にも危険な任務にあたらせてしまった訳で。時雨が、軽い溜め息を吐いた。錦の気持ちは分からないでは無いのだが、と。 「だから、俺や纒がお前の護衛をするんだろう。そもそも、帝の側を離れなければそんな目には合わん」  最もな意見。処が、此れに錦の反応が変わった。ほんのり染まる頬に、時雨の片眉が動く。 「そ、そうだけど……あんな騒ぎになったし……一刀が、助けに来てくれたんだよ……一刀は、帝なのに……自ら……」
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