東の心の臓。

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 言いつつ、錦は込み上げる嬉しさと、恥じらいに俯いてしまった様だ。  そうだ。不謹慎なのだが、あの時一刀が来てくれた事は物凄く嬉しかった錦。 「そんなお話があったなぁ……まぁ、助けて貰えるのは、姫君なんだけどさ……皇子様が其の姫君を救う為に、危険を顧みずに悪鬼に向かっていくんだ……」 「皇子様が、悪鬼に……」  うっとりと語る錦の惚気に、時雨は思う。其の場に立ち会えなかったが、聞く処によると今錦の中で正義の味方なのだろう一刀こそが、鬼に見えたとの証言を耳にしたもので。 「命をも狙われてて、危険なのにも関わらず……私の、為に……」  再び声にしては、真っ赤になる錦。其の脳裏に浮かぶ一刀は、錦の為に止むを得ず刀を握る、一刀の勇ましさと凛々しさが描かれているのだろう。が、実際は人形の如く無表情で刀を振るう、其れは其れは不気味な姿であったと言う。辛うじて生きていた一刀の理性で西の武官達は生還していたが、一刀と対峙した若い武官の中には、感じた事の無い言い表せぬ殺気を目の当たりにし、精神的に酷く疲弊したのか、刀を握れぬ様になった者もいたらしく。 「一刀はね、本当にお優しい方なんだよ」
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