お金がない

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お金がない

 夕飯時、人数が多いにもかかわらず、私たちはみんな一緒にご飯を食べる。律儀にもみんなお父さんの帰りを待っているが、双子は当然腹が減ったとせがむし、陽向は乳をくれと泣き喚く。  陽向がお乳を飲み終わり、ウトウトし始めたころ、ようやく旦那が帰って来た。 「今日も疲れたよ」  食卓に着くなり旦那はそう口にした。毎度のことである。それでも旦那はすごい方だ。子供6人を養っているのだから。貧乏なのは子供が多いからである。そんなことをお構いなしにゲーマーの大輝はおねだりを始めた。 「なあ、父ちゃん。今度新しいゲームが発売されるんだけど」  私は肩を落とした。皆まで聞かずとも分かる。 「ダメよ。お金ないんだから」  すると大輝は物凄い剣幕でそのゲームがいかにすごいか力説し始めた。 「分かった分かった。考えとくよ」  大輝を抑え込もうとしても無駄なことが分かっているので、旦那はいい加減な返事をした。私はしっかりダメと言いなさいよと心の中で呟いていた。  すると急に葵が両肘をついて物憂げな表情でため息を漏らした。 「はあ、大輝はいいよねえ。何でもすぐに買ってもらえて」 「どうした、めずらしいな。葵も何かほしいのか?」  長女だからかいつも物ねだりしない葵を珍しく思ったのか、旦那が問いかけた。 「新しい携帯とかいい化粧品とか、いっぱいあるわよ」 「うっ」  携帯というワードに引っかかったのか、旦那は返す言葉が出ないようだった。 「お姉ちゃんは何で化粧にそんなに(こだわ)るの? してもしなくても一緒だよ」  一方愛菜はいつも通り葵の化粧について突っかかっていた。 「あんたには分からないわよ。絵具ででもお顔にお化粧してなさい。あ、お化粧じゃなくて落書きね」  葵と愛菜の言い争いが始まった。 「まあまあ、化粧しなくても綺麗ってことかもしれないし」  葵の機嫌を取ろうと思ったのか、旦那が仲裁に入った。 「ううん、お姉ちゃんが化粧すると変だよ。ブスだよ、ブス」  争いは余計悪化し愛菜が叩かれ泣き出した。 「それなら俺たちだって新しいボールとかシューズとか欲しいよな」  麦斗と史斗は活発で、二人ともサッカーをやっていた。しかし中古のボールやくたびれたシューズで我慢していた。 「私、バイトしようかな」  葵が再び両肘をついて呟いた。 「ダメだぞ、高校生でバイトなんて。高校生の間はちゃんと勉強しなさい」  旦那のその一言で火が付いたのか、じゃあお小遣いをもっと増やせだの俺たちも増やせだのゲーム機を買えだの、食卓はいつにも増して騒がしくなった。  バンッ!  私はとうとう机を叩いた。 「みんなそんなにお金が欲しいのね? 分かったわ。じゃあここに100万円もらえる話があるから。みんなちゃんと協力するのよ?」
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