一家の日常

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一家の日常

 ジリリリリ……。朝の目覚ましが鳴り響く。私にとってその音は、けたたましく鳴るサイレンと同等だ。なぜならそれは私の地獄の一日の始まりを意味するからだ。 「ん……、ん……」  うめき声を漏らしながらまだ重い体を起こし、布団を出る。  今日も長い一日が始まる……。  伸びをして無理矢理体を起こすと、まずは朝ごはんと弁当の準備だ。ここまではごく一般的な主婦と変わらないかもしれない。しかし私にはこれだけでも一苦労なのだ。なぜなら私はそれらを6、7人前作らなければいけない。私の家は8人家族だった。  それと同時進行で次なる格闘へと移行する。それは皆を起こすことだ。 生ぬるい起こし方では皆甘えているので、言葉通り叩き起こす。不満を垂れながら渋々起きる皆を尻目に、一番の問題児の尻を私は引っぱたいた。 「うーん、あと10分」 「だから夜中にゲームはやめなさいって言ってるでしょ!」  彼は三男の大輝(たいき)。大のゲーム好きで、暇があればゲーム機を手にしている。私が一番頭を抱えているのは彼が夜遅くまでゲームをすることだ。布団の中で隠れてゲームをしていることもしばしばで、当然教育上よくないし、現に今起きられず布団にへばりついている。彼を起こすために、朝の忙しい時間を割いて布団を畳まなければならない。  皆がご飯を食べているうちにゴミ捨てや雑事を済ます。するとちょっと目を離していた隙に長女の(あおい)と末娘の愛菜(まな)が喧嘩を始めていた。葵がメイクをしているうちに愛菜がおかずを盗み食いしたという。  彼女たちは10歳近く離れている。高校生なのにまともに小学生の相手をする葵はもちろんだが、愛菜の方も葵に対してだけはやたらと憎らしい態度を取る。そして両成敗で二人とも叱りつけると愛菜が泣いた。しかし最後には負けじと 「ブス」  と舌を出して逃げ去った。  食後は通勤と通学の準備で、家族は廊下や居間でかち合っていた。 「母さん、ワイシャツはどこ?」  旦那は毎朝ワイシャツの場所を聞いてくる。いつも同じ所にかけてあるが、どうやら覚える気がないらしい。 「アイロンかけといてって言ったじゃない!」  葵は年ごろで、とにかく身だしなみにうるさい。  皆の質疑やクレームに対応していると、小6の双子の男児麦斗(むぎと)史斗(ふみと)が目の前を駆けて行った。 「こら! 早く準備しなさい!」  二人はやんちゃ盛りでとにかく常に遊んでいる。そして遅刻の常習犯だ。担任との面談では毎年そのことに言及される。  二人を叱りつけてチラと隅に目を遣ると大輝がゲームをしていた。  全員送り出してようやく一息……ではない。 「オギャーー!」  一歳の陽向(ひなた)の面倒とともに午前は洗濯物に時間を取られる。とにかく洗濯物の量が半端じゃない。数回洗濯機を回し、ようやくお昼の休憩を取る。 午後の時間は主に掃除と買い物に費やされる。人数が多いととにかく散らかるのだ。毎日毎日片づけても、不思議と翌日は昨日と同様に散らかっている。  そして大家族の大敵は買い物だ。特に赤ちゃんを連れながらの買い物はとにかく骨の折れる仕事だ。買う量が尋常じゃないし、常に陽向を気にかけていなければならない。ようやく家に帰り、冷蔵庫に材料をしまっていると、案の定カレーのルーを買い忘れてしまっていた……。  再び買い物を終え、ため息をつきながら郵便受けを見ると、そこには一通の手紙が入っていた。何だろうと訝しがりながら封筒を裏返して差出人を見た。
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