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three
「はぁっ、あ」
声を押し殺す。デスクの下の狭い空間に這ったまま、彼の熱を受け入れていた。頭を低くして体を隠すようにして床に突っ伏しているのに、ケツだけは突き出して彼に差し出す体勢。ふっかふかのでっかいクッションとタオルケットを敷いてはいるけど、その体勢に小学校のとき避難訓練で机に潜ったことを思い出しながら、緩やかに突き上げてくるペースに身を任せた。
社長椅子を調整して、俺の腰に負担がない高さに合わせてくれた。そこまでしてヤりたいのかって感じがしなくもないけど。
「純利益の下降幅が広がったのは仕方ない、貯蓄がないわけではないから、数ヶ月はフォローできるだろう。従業員の雇用の確保に全力を尽くしたいから、新たなビジネスも模索していこう。現状を踏まえて俺の具体的な見識を述べさせてもらうと……」
彼は完全社長モードの口調で、淡々とパソコンの画面に向かっている。突き上げることで体が揺れていることを、案の定画面越しに不思議に思われたようだったが「腰が痛いから、今日は椅子にマッサージ器具を取り付けている」と言って誤魔化していた。俺も俺でまぁマッサージに違いないか、と思う余裕も多少あった。けど、声は止まらない。
「本当に俺の声がいかないように設定してるんだよなっ?」
繋がる前、念を押して尋ねたら「もちろんだ」と胸を張って応えてくれた。
「さすがに俺としても、セックスしながら会議をしているのがバレたら大事だ」
「そりゃそうか」
「だからそこは抜かりない。心配しないでくれ」
この騒動とは別に大問題になるもんな。それでも声はなるべく控えめにした。
淡々と社長業をこなす彼は俺を穿ってくる下半身の熱さとは真逆で、上半身と下半身で別人みたいだった。
話の内容と俺が受け入れている熱量との温度差がすごくて、いけないことをしている感じがまざまざと伝わってくる。それが興奮をあおった。
「っ、うー……」
こういうときに限って、彼も彼で抉るみたいに奥を突き上げてくる。奥の方が本当に弱くて、いちいち体が跳ね上がるほどだった。
声を押し殺すのに、彼の指先は静かに俺の下半身に忍び寄って、いつもより丁寧に先端から根元まで撫でてくる。本当確信犯だろ。
「っ、あ」
クッションに顔を埋めて声を漏らさないように堪えた。彼を含んだ内部が勝手に締まるのを感じる。真面目に会議に向き合う彼の息が軽く跳ねた。
「あっ、ああすまない、マッサージ機の調子が良くなくて驚いただけだ」
すぐにフォローを入れてるし。画面からは新しいマッサージ機を買ったらどうだという声と笑い声が聞こえる。なんかちょっとイラっとする。腹に力を入れて、これでもかと彼を締め付けてやった。
「くっ、う」
彼が唸る。彼との関係において、俺も俺で多少テクニックみたいなものを身に付けたみたいで、どういうタイミングでどう締め付ければ彼が悦ぶのかを把握するようになっていた。もちろん彼が一番気持ちいいタイミングで締め付ける。彼はその度にフォローを入れるけど、いよいよ堪えきれなくなったらしくて、ちょっと待ってくれ、と声を上げた。
「本当にマッサージ機の調子が悪いらしい、すまないが待っていてくれないか」
ちょっと待ってくれの言葉の先にいるのは、俺じゃなくてオンライン会議の相手だった。
「ああわかったよ、それじゃあちょっとみんなで一息入れよう」
「10分ほど休憩だ」
画面の中の雰囲気が和やかになった。笑い声も聞こえる。それとは裏腹に、マッサージ機と化した俺と施術を受けている彼の間は緊張感が増していた。
「……ハニー、10分でケリをつけよう」
ケリをつけようなんて、自分から誘っておいて俺のせいみたいに言われるのは心外だ。それならこっちにも考えがある。不覚にも俺も俺で妙な興奮を覚えてしまって。
「10分じゃケリつかないくらい気持ちよくしてやるよ」
振り返ってニヤリと笑うと、いつになく余裕なさそうな彼が、いつになく激しく中を抉ってきたのだった。
………
……
…
10分後。
結果経験値の高い彼が僅差で勝って、俺は中に出されたまま、寝室に寝かされてしまった。ちなみに俺も5分とたたずにイかされていた。
「うー……なんか悔しい」
彼の仕事が世界を救うのを支える、みたいな大義名分はどこへやら。結局、俺がただただ気持ちよくされる、いつものセックスに終始した。
また仕事に戻った彼は部屋を出る間際、ちょっと恥ずかしそうに俺に囁いたのだった。
「会議が終わったら明日の朝までたっぷり抱いてやる。今のうちに寝ておいてくれ」
(明日の朝って……)
今昼の2時過ぎ。会議はいつ終わるかわからないけど、そう遠くはないだろう。
有言実行の男の予告に、少し体温が上がる気がして、とりあえず言われた通りに眠っておくことにする。
それじゃ、おやすみ。
ー終わりー
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