100万ドルの夜景

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100万ドルの夜景

美月は街を見下ろす山の展望台に立っていた。 初夏の夜風が美月の顔を優しく撫でていく。 「きれーい。さすが、100万ドルの夜景ね。 あの光、手を伸ばせば取れそうだわ。」 と、類に微笑みかける。 類は少しはにかんだような笑顔をして、美月を見つめていた。 「ん?ねぇ、どうしたの?」 「いや。ねえ美月。光ならもうここに取ってあるよ。」 と言って、ポケットから綺麗なブルーの小箱を取り出し開け、開け、、開、、 「美月、美月ぃ」 美月はハッとして目を開けた。 そうだ、今日は仕事の飲み会の後、まだ時間が早いからと同期の大也に誘われて、一緒に市営公園の観覧車に乗ったんだっけ。ゴンドラのすぐ下には、始めたばかりのビアガーデンの提灯が見える。 普段なら誘いになんて乗らないが、仕事でくさくさしていたので、夜景でも見たら気が晴れるかな?と思い行ってみることにしたのだ。 大也は、悪人では無かったが、ちょっと器の小さい男だった。 例えば、一緒にランチに行くと、 「悪りぃ、100円貸してくんない?後で直ぐ返すからさぁ。」 だが、誰も彼から返してもらったためしがない。 ただ貸した方も、100円、200円のことだと忘れてしまったり、まっいいかと思ってしまう。 ついたあだなが「ひゃっきん」(※イントネーションは、「ひゃ」にアクセントをつけて) 美月にとっては、仕事で会わなかったら、全く接点のない男だった。 その点、夢に出てきた類は、世に言う3拍子揃ったイケメンで人望もあった。何でも、その業界では名の知れた会社の跡取りとか。修行のため、ウチの会社で勤務しているらしい。 女子社員達が、この王子様をめぐって争奪戦を繰り広げている事は言うまでもない。 ただ、彼はというと、どこかヒョウヒョウとしていて、掴みどころがないところがあった。そこが母性愛をくすぐるというか、この王子様の人気の1つであった。王子様の気を惹き付けるために、皆全力で勝負していた。 「あ、あぁ、ごめん、ごめん。」 大也が 「ねえ、ねえ」 と言って、そのちょっと緩めのお尻を美月の座っている椅子の横に捻りこんできた。 「な、な、なに!!」 「てか、美月ぃ、この景色何万ドルかなぁ?」 「はぁ~??300円じゃない!!!」 ガッタン、ガチャ。 ゴンドラがいきなり吹いてきた強風にあおられて、乱暴に乗り場に戻って来た。
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