手をかざせば……

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手をかざせば……

 これが去年、高二の夏休みに起きた出来事。  それから二ヶ月後に、彼女は交通事故に巻き込まれて重体におちいった。  回復の見込みはない。  彼女の太陽のように照らす明るい笑顔は、宇宙の冷たい空間ように凍った。    夜空を見ると思い出す。  どうして素直に内に秘めた思いを伝えなかったのか、酷く後悔した。  これから先、思いを伝える瞬間が訪れないと考えるだけで、破れたグラスのように心がバラバラになりそうだ。  神様が僕に教えた教訓は、同じチャンスは二度と訪れないということだ。  この後悔は、永遠に降りられない観覧車に乗ってしまった気になる。  もう二度と、次は……。  不意に、耳をくすぐる鈴の音のような声が、背中を撫でた。 「もしかして、私の真似してた?」  振り向くと彼女がいた。  僕は自然に受け答えする。 「まぁね。何でも試してみないと、面白いかどうか解らないからね」 「へぇ〜、私が寝てる間、成長した訳だ? 感心感心」  事故から数カ月間、昏睡状態だった彼女は、意識を取り戻し奇跡的に回復したものの、後遺症が残ってしまい車椅子生活を余儀なくする。  手でタイヤを押す彼女を見かねて、僕は車椅子の後ろへ回り地平線が見える所まで運ぶ。  夏の青みがかった暗い空を見上げ、二人で光の海を一望すると、星の瞬きが僕らの会話を奪った。  僕はあらためて、胸の秘めた思いを確認する。  同じ瞬間は、また来るとは限らない。  セカンドチャンスになんか期待してたらダメだ。  今、この時、この瞬間、後悔を残さない為にも僕の思いを伝えよう。  彼女はまるで星を掴もうとするように、腕を上げて手の平で天を仰ぐ。  腰を浮かし前のめりになるので、車椅子から転げ落ちるのではないかと、肝を冷やした。  早く思いを告げないと、このまま星の神々に彼女をさらわれかねない。 「あの、さ」 「何?」 「君のことが、ずっと前から――――――――好き、だったんだ……」  彼女はゆっくり腕を下ろした後、時を止めた。  すごく焦れったい。  時が流れて行くように彼女の口は自然と開かれた。  彼女の返事は――――――――。                fin
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