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花音との再会
「あら、愛仙、お久しぶり。元気そうね。相変わらず、自由気ままに女遊びを続けているの。」
昼休み、たまたま入ったファミレスで思いがけない再会をはたすことになった。
私が勤める会社の受付嬢だったが、結婚して退社したはずの花音(かのん)が、ウエイトレスとして働いていたのである。
容姿端麗で、社長秘書の麗華に負けず劣らずマドンナ的存在で、花音に夢中になる男性社員は実に多かった。
私とは同期で、当然、男と女の関係はあった。
その頃の愛仙は、いわゆる平成の光源氏的存在であり、自分から口説くことはなかったが、来るものは拒まず、去る者は追わずのスタンスを貫いていた。
花音に取引先の会社の次期社長に見初められ、結婚を前提としたお付き合いを申し込まれたことを相談された時も、愛仙は花音を冷たく突き放したのであった。
久しぶりの挨拶にしては、随分辛辣であったが、それも自業自得で仕方がない。
「私も結婚した。籍は入れたが、式は挙げていない。」
「ふ~ん、あの愛仙が結婚するなんて、信じられないわ。どんな相手かすごく気になるし、それ以上に私も相談したいことがあるから、夕ご飯でもどう。驕るわよ。」
そこまで言われたら、断る訳にはいかぬ。男がすたる。約束の時間と場所を確認した。
いつものお気に入りの豚の生姜焼きのランチも、複雑な心境で食べた。
会社が終わり、愛する妻の茉莉には昔の同僚と飯を食うことになったとメールを送った。嘘はついていない。
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