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不倫相手と会う
「初めまして。花音さんには、何かとお世話になっております。」
私が花音に指示した時間と場所に、きっちりと王は現れた。
歩は武の基本なり、なかなかの達人と見た。
「いいえ、こちらこそ、妻がお世話になっております。」
私は、花音の神経質でひ弱なダンナを演じることになっていた。
「こんな時分に、こんな場所でお話とは、何でしょうか。」
王はしたたかな笑顔を見せた。
「妻とは、きっぱり別れてほしい。」
「別にかまいませんが、ネットで奥さんとのこと流しますよ。ご主人の会社の名誉にかかわると思いますが、如何でしょうか。」
「要求は、何だ。はっきりと言いたまえ。」
「そんな俺の口から、言えません。何なら、ご夫婦でAVビデオに出演してくれても良いですよ。」
私を単なる優男と甘く見ているに違いない。なめきっている。
「金ならここに持って来た。400万円、用意した。」
私は、手にした鞄を開けて、中身を見せた。新聞紙でない本物であることを証明した。
私はカイザーの件で、報酬として大金を貰っていたから400万円など何の問題もない。そもそもお金に執着しない性格である。
「そうですか、それは、それは用意がいいですね。」
王は満面のゑびす顔になった。
もっと、もっと、これからも、ふんだくる気満々である。すっかり、 金の生る木を見つけた気になっている。いい気なものだ。
鞄を私から奪おうとするが、私は断固として手を離さない。
「ただし、私に勝ったら、このお金を差し上げます。負けたら、潔く妻と別れて下さい。」
私の申し出に、王は一瞬唖然となったが、大笑いした。
「ご主人は、冗談のセンスも一流ですね。良いでしょう、俺が負ければ、潔く、手をひきます。負ければね。」
自分の勝利を200%信じている。
幼いころから、王朗の名に憧れ、あやかるように厳しい修行に明け暮れ、腕には自信を持っていたに違いない。
しかし、私の力量を見誤るようでは武術家として失格である。
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