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「その(ツラ)、どうした」 クルマに乗ったトミーに対するポーリーの第一声がそれだった。 「なんでもない」 「なんでもないことないだろう。誰にやられた」 「ふたり組のレイプ魔を取り押さえるときにちょっと抵抗されたんだ」 「レイプ魔か」 「そうだ。レイプ魔だ。クルマの中で女に乱暴しようとしてた」 「そんな破廉恥野郎なんか撃ち殺しゃあいいんだ。何のために拳銃ぶら下げてんだ。てめえの拳銃は飾りか」 「連中がまた同じことやらかしたら、今度は撃ち殺すよ」 「で、実際の話、そいつらはどうなった」 「病院送りさ。入院してる」 「ふん」 ポーリーは鼻で笑った。 「当然だな。女性を大事に出来ねえようなクズどもには良い薬になるだろうぜ」 ポンティアックはチャイナタウンを走り続ける。しばらく無言が続いた。 「トミー。さっきの巡査の名前を教えろ」 ポーリーは不機嫌を絵に描いたような顔をしていた。 「聞いてどうするんだ」 「名前だ。名前を知りたい。野郎の名前を教えろ」 「ただの小者だ。あんたから見たら雑魚だろう。あんなのいちいち根に持つなよポーリー」 「俺を熊ゴリラ呼ばわりしやがった。あの野郎、ブルックリン橋の天辺からイースト川に放り込んでやる。岸まで泳いで辿り着けるかどうかは本人の運と気合い次第だ」 「ポーリー。あんただってあいつを豚パンダ呼ばわりしたじゃないか。同点の引き分けで恨みっこなしだ」 「恨みっこなしか」 「そうだ。あれはただの下っぱだ。一生をヒラ巡査として過ごすしょうもない出来損ないだ。あんなつまらない野郎なんか無視しろよ。あんたほどの名誉ある男なら、もっと大物を相手にするべきだ」 トミーが早口で熱っぽく語っていると、ポーリーの顔色はいくらか和らいできた。 「まあいいさ。どうせあれは小者だからな。おまえに免じて忘れてやるよ。それよりトミー。今からやってもらいたい仕事があるんだ」 始まった。今度は何が始まるんだ。 トミーは絶望感にうちひしがれながら、静かに両目を閉じた。
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