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20
眠りは深かった。それはまるで底無し沼のように。
夜明けまでのわずかな時間のすべてを、トミーは眠りに費やした。
目覚め。頭が重い。
シャワーを浴びようと思う。
温水と冷水を交互に浴びているうちに、気力が身体の内側から沸き上がってくるのを確かに感じた。シャワーを終えてすっきりしたときには、頭の重さは嘘のように霧散していた。
ジャンクフードの朝食を済ませて出勤した。刑事部屋で再びマリガンと顔を合わせた。挨拶を交わしはしたが、昨夜の出来事は意識して話題に出さなかった。それはともかくとして、FBIニューヨーク支局の捜査官にコネを持つマリガンにはどうしても頼みたいことがあった。
刑事部屋の朝は慌ただしい。そこはいつものように戦場だった。だが、いつもと違うのはファロンの姿とミウラの姿が見えないことだ。彼らふたりはライアンの入院先で護衛任務についているのだ。
「マリガン……」
トミーはマリガンを呼び止め、そっと耳打ちした。トミーの声はマリガンにしか聞こえていない。
「何? カネで動く例のFBI特別捜査官を紹介して欲しいってか?」
小声で聞き返したマリガンは、当直明けでいかにも眠たそうだった。
「そうだ。マフィア首領のエンツォ・ロンバルディの長女ジュリエットに関しての情報が欲しい」
トミーはマリガン以上の小声で囁き返した。
「首領の娘の情報を仕入れてどうする」
「俺にはやらなきゃならないことがある」
「穏やかじゃないな。エンツォ・ロンバルディの娘の情報だぞ。その辺のチンピラの娘のネタを仕入れるのとはわけが違う。おまえが首領の娘の身辺をうろちょろ探ってるのがマフィアに知れたら命はないぞ。そういう自覚はあるのか」
「覚悟の上さ。それともおまえの友人のFBIはマフィアの手先なのか」
「まさか。FBIは市警察の警官とはわけが違うんだ。マフィアの手先なはずがない」
「だったらおまえさえ口を閉じていてくれたら安心だろう。頼む」
「まあ、いいだろう」
マリガンは頷いた。その表情からマリガンの心のうちを読み取ることは出来なかった。
「で、俺の友達に会うのはいつがいい」
「なるべく早く。できれば今日の昼前には会いたい」
「電話して来てやる。待ってろ戦友」
マリガンはいったん刑事部屋の外に出ていった。トミーは書類を整理するふりをしながらマリガンの帰りをひたすら待った。
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