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十分後、マリガンは刑事部屋に姿を現した。
「話をつけてきたぞ。一時間後、2番街東8丁目リトルウクライナの交差点近くの公衆電話を使うふりをしながら待て」
「そういう指示なのか」
「そうだ」
「スパイ映画みたいだな」
トミーは冗談を言ったつもりだったのだが、どうやらそれはマリガンに通じなかったようだ。マリガンは真顔だった。
「俺も一緒に立ち会ったほうがいいか」
「いや、おまえは当直明けだし、昨夜のこともあるからゆっくり休んでくれ。FBIに話をつけてくれただけでありがたい。あとは俺がどうにかする」
「そうか。そうしてくれたら助かる。眠くてかなわん。顔も痛いしよ」
マリガンは自らの顔の絆創膏を撫でてみせた。それからニヤリと笑った。冗談のつもりだろうか。今度はトミーが真顔になった。
「冗談だよ。顔が痛いのはお互い様だ。ところで、ナニの相場は三百ドルから五百ドルぐらいだ。それ以上やる必要ねえぞ」
「そんなもんで本当にいいのか」
「充分すぎるぐらいだよ。その代わり、現金は封筒なんかで見えないように隠せよ。そうだ、名前を教えとかなきゃな。捜査官の名前はオズワルド。リーリー・ハーベイ・オズワルドだ」
「それ、本名か」
酷い名前だと思った。
ケネディ大統領暗殺犯――頭のイカれた共産主義被れのあのテロリストとほとんど同じ名前だ。ヒトラー、ゲッべルス、ゲーリング。それらと同じようにオズワルド姓はアメリカで滅多に見ない。同姓だった者もきっとそれなりにいたはずなのだが、トミーの知る限りそれらの悪姓を名乗る者はいない。みんな一人残らず別な姓に変えてしまったのだろう。それを今に至ってオズワルドを名乗るなど、どう贔屓目に見てもまともな精神状態とは思えなかった。
「本名なのかって?」
マリガンは顔の表面の絆創膏を歪めながら笑った。
「名前なんて単なる記号に過ぎないのさ。そもそも俺のマリガンという名前にしたって本名かどうかもわからんのだぜ。俺は帰るが、せいぜいうまくやってくれや」
マリガンは笑いながらロッカー室へと去って行った。
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