10人が本棚に入れています
本棚に追加
大学近くにあるダーツバーでのバイトを終えた俺は、いつものようにアパートへの帰り道を歩いていた。
2か月前に二十歳になった俺は、バイト先にやってくるお客さんからお酒を奢られることも増えたので、それまで自転車で通っていたバイトへ歩いて通うようになっていた。
歩いたとしてもアパートまで15分ほど。ダーツバーの喧騒を一歩歩くごとに払い落し、一人暮らしの静かなアパートの住人へと戻る時間としては悪くはないと、このバイト帰りの散歩を俺は楽しんでいた。
週の真ん中のこの日は客もそんなに多くなくて、ここ最近では珍しく素面の俺は、もうすぐこの街の桜も終わりを迎えることを思い出し、少しだけ遠回りして桜並木の下を通って帰ることにした。
長い桜並木の桜を眺めながら歩いていると、遠くにうずくまるような人影が見えた。飲みすぎた酔っ払いが動けなくなったか?と心配しながら近づいていくと、それは車いすに座った若い男の姿だった。車いすの上で膝に頭をつけて小さく丸まっていた。
この時間に知らない人に話しかけることには抵抗があったものの、具合の悪そうな車いすの人間を放置しておくのは人道的に許されることでもなく、「あのー、大丈夫ですか?」と俺は声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!