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どうしてこの青年が俺を知っているのか?
この青年の名前はなんというのか?
年齢はいくつか?
どうして車いす生活になったのか?
車いす生活なのに一人暮らしをしているのか?
聞きたいことはたくさんあったけれど、なぜだか今夜はこれ以上彼の口から言葉が聞けるとは思えなくて、俺は彼の部屋の前で車いすを押すのをやめると、「それじゃあ、また。」とだけ告げた。
そんな俺に彼は「うん、またね。」と答えると、鍵を開けて開いたドアの中に慣れた手つきで車いすをすすめ、静かにドアを閉めた。
*****
次の日の朝、昨晩の出来事が夢ではないかと思いながらアパートのドアを開けた俺は、向かいのアパートの前で車いすに乗って俺に手を振る彼を見つけた。
そして、俺が昨晩夜桜の下で出会ったのは桜の精でもなんでもなくて、俺のアパートの前に住む生身の人間だと安堵した。
そして俺は彼を見つめながら「これから先、君を知っていく機会がたくさんある気がするよ」と心の中でつぶやいていた。

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