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『……出没って…』
二丁目で遊んでるなんて聞いてない。仕事も忙しいし、そんな頻繁にうろつく時間なんてないはずなのに…。
「ふぅ~ん、まぁ別にそんなに驚くことじゃないよ。知り合いだって多いし」
『そうですよね』
私は愛想笑いするのが精一杯。だって思い出しちゃったから。夜な夜な出掛ける彼の事を。
「しかも、出入りしてる店が同じらしいのよ」
ハジメさんは、久砂さんの手を握りしめながら意味深な笑みを浮かべた。
「お気に入りの娘でもいるのかしらねぇ」
『えっ?!』
「お き に い り。お気に入り!」
……お気に入り…。そんな、まさかねぇ…。
でも…無いと言い切れる…?
『ほら、何かのリサーチとかじゃないですか?』
「そこもオールジェンダー歓迎だけど、バイが多いのが特徴。それに料理も美味しくて、それ目当てのお客もけっこういるのよぉ」
…バイ……バイセクシャルってことね。
まって、まって、まって…。え……ちょっと…頭の整理がつかなくてパニックになりそう。
えーっと、えーっと、隆二さんは夜な夜な二丁目に通っていて、そのお店はバイが集っていて、お気に入りがいるってこと?
「やっぱり隆二クラスになると、性別なんて関係ないのねぇ。火遊びでもいいじゃない、あのオトコに抱かれるなんて考えただけでもヨダレもんだわ。あ、もちろんTHE CLUBの面々なら誰でもおっけぇよぉ」
ハジメさんはうっとりと久砂さんを眺める。久砂さんは流石という受け答えをしていて、私はその隣で落ち着きがなくなっていった。
『でも、私たち結婚したばかりだし…もう…不倫…しますかね…?』
「あらやだ、なに寝ぼけた事言ってるの?隆二よ?結婚できただけ奇跡じゃないのー!繋ぎ止めたいならうるさい事言わないことね」
そんなわけ…ない。
「ほらぁ、そんな顔してたらせっかくの美人が台無しよ?気になるなら聞いてごらんなさいな、旦那様に」
“そんな顔”になったのはハジメさんのせい。だけどそんな事言えるわけもなく、私は小さく頷くだけに留めておいた。でも、有難い情報だったと思う。相談案件どころか、これは”問い詰め案件”だ。
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