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@ 久砂
……出てったって何だよ。
「……隆二…お前……何したんだよ」
隆二の言っていることが俄かに信じられない。だって出て行くって相当なことだろ?
「まさか…手ぇあげたりしてないよな」
「…するかよ、んなこと」
「じゃぁ何だよ」
「…………」
何でなにも言わねぇんだよ。まさか…
「………女?」
「…………」
否定しろよ。否定しないなら…
「……てめぇ…ふざけんなよっ」
勢いに任せて隆二の胸ぐらを掴んだ。数十センチの距離にある隆二の顔は、真剣だ。やましさを微塵も感じさせない、真っ直ぐな眼光。
なにか、訳あり…?
「……理由によっちゃ許さねぇからな」
突き飛ばすように手を放した。
「つーかよぉ!お前は何でこんなとこにいんだよ?!探さねぇのかよ?!」
「…仕事行ってる。それは確認してる」
「確認してるって…連絡しろよ!行けよ!」
「……アホか。んなことできる訳ねぇだろ」
「それならなぁ!……っ」
「……わかんねぇんだよ」
両手で顔を覆い、情けない声を絞り出すように呟いた隆二。
「……まじで…理由がわかんねぇんだよ…」
、
「俺も会いたかったんだけど…ゴボッ…風邪ひいちゃっ…ゴボッ…でも声聞いたら元気でたよ…ゴボッ…」
こうなりゃ仮病だ仮病。
俺は茉莉花の働く店を目指しながら客に電話を掛けまくった。こんな時助かるのは、これまでほとんど仮病を使ってこなかった恩恵だ。誰一人俺の嘘を疑わず、”見舞金”を店に届けてくれるってこと。
だから俺は今日の売り上げを気にせず茉莉花に時間を使ってやれる。
仕事してるって隆二は言ってたけど、それはマジなのか。一人で泣いているんじゃないかって、気が気じゃなかった。
ショップの前に着くと、歓迎の言葉とともにドアが開く。ぐるりと店内を見渡すと、いるはずの彼女の姿はなかった。他のスタッフに声を掛けようとしたら、背後から確かめるように声をかけられた。
『久砂さん?』
「…茉莉花」
いた。
『いらっしゃいませ。今日は何をお探しですか?あ、でもどうしよ…私今日はもうあがりなんです』
「帰るの?」
『………』
なんだ、この間は。
『…もちろんです』
「…じゃあ…送る」
どこに帰るつもりだよ。
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