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相当な女
“凄く綺麗なキッチンですね。使ってないみたい”
“彼が可哀想よ”
“我が物顔で上がり込んで何様?!”
“一晩だけでもいいの。相手の気持ちなんてどうでもいい”
二人の女が今にも取っ組み合いを始めそうな勢いで言い争っている。
そこから少し離れたところで高みの見物を決め込んでいる男が一人。
女が一発ずつ、それぞれの頬に平手打ちをお見舞いした。乾いた音がリビングに響き渡ると、女はお互いに頬を押さえながら嫉妬の顔を覗かせた。
顔をしかめた男は、こちらに向かって歩みを進め、女を抱きしめる。
隆二さんが腕の中に閉じ込めたのは、私じゃなかった。
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桜の便りが全国届き始めた三月下旬。
何とも目覚めの悪い朝。うっすらと目を開けて、天井を見ながら首を撫でると、じっとりと汗をかいていた。
“暖かな春の日差しが…"なんて言葉をニュース番組でよく聞くようになったけれど、朝の気温は裸にはまだまだ優しくない。
隣で眠る隆二さんに擦り寄って、脚を絡ませながら彼の体温を奪うように背中に腕を回した。
素肌に頬を寄せ、考えるのはさっき見た夢のこと。
フィクションだけどあまりに鮮明で、”修羅場の現場”として私に痛く刻み込ませた。
「………はよ…」
『…おはよ…起こしちゃった?』
「……いや…どした?……難しい顔…」
いつだって、私の些細な変化を感じ取ってくれる隆二さん。夢の話だよって前置きをして、”修羅場の現場” を説明した。
「……へぇ…」
生返事を繰り返しながら、彼が動かすのは腕だったり手だったり、指だったり。
『……ちょっ…や………もぉ!!隆二さんどこさわってるの』
柔らかいところも、ツンと上をむいたところも、一番敏感なところも彼のてのひらで甘く遊ばれる。
起きたての身体は、水を与えられたように溢れ出し、敏感に彼からの熱を受け取った。
情熱的な朝を過ごすのは、日常の一コマ。
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『夜桜見に行きたい』
関東地方なら、ソメイヨシノが見頃。それならと隆二さんが提案してくれた場所は、ちょうど一年前に訪れたお寺の境内だった。
今年も桜のライトアップをしているから、私の仕事終わりに待ち合わせをしてデートしようって。
入籍してから二ヶ月弱。
私たちの関係は、とても良好。
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