相当な女

10/40
9556人が本棚に入れています
本棚に追加
/495ページ
「茉莉花さんこれもいい?」 カトラリーやシャンパングラスなんかをテーブルに並べていたら、shinさんが取り皿に使う食器を大量に重ねて持ってきた。 「重いよ~気をつけてね」 両手で持つshinさんの下から手を回してお皿を受け取る。shinさんが手を離したら、想像していた以上に重たくて私の両腕が下がった。 『……あっ!』 数枚が滑り落ちそうになった。 「おっとぉ~…」 その様子を見ていたshinさんが慌てて手を差し伸べて、落下を防いでくれた。 私の両手に添えられたshinさんの手。隆二さんの繊細な手とは違う、少し肉厚な料理人の手。 『ごっ、ごめんなさい』 「ちょっと重かったね、ごめんごめん。持つよ」 『すみません、ありがとうございます』 手を引き抜こうとしたら、掴まれた気がした。 私は今……shinさんに手を握られている…? 『……あの、』 shinさんは真正面から私を見下ろして、一度微笑んでからバルコニーで電話中の隆二さんに視線を動かした。 「いーなぁ隆二のヤツ。こんな美人の奥さんもらって…」 ゆっくりと首を回したshinさんがまた私を見下ろした。 「いーなぁ…仲良しで…」 私の指先を撫でながらお皿の束を持ち直したshinさん。そのままテーブルに置き、もうすぐ全部出来るからと言い、笑いながらreiさんのいるキッチンに戻っていった。 手の表面に残る感触。 「…もう久砂たち着くって」 電話を終えた隆二さんがリビングに戻ってきて私の正面に立った。無言で隆二さんを見つめた。 「……どうした?」 隆二さんは少し腰を屈め、あやすように私の髪を撫でる。 「おぉ~い、見せつけんなよ~」 キッチンから届くshinさんの冷やかし。 隆二さんは屈めていた腰を伸ばし、shinさんに向かって小憎たらしい笑みを贈っていた。そして、もう一度私に聞く。どうした、と。 『あ……ううん、何でもないの。料理美味しそうって思って…』 「……あと少し我慢な」 可笑しそうに目尻を下げた隆二さんに合わせて私も笑う。落ち着かなくて、下げた手をぎゅっと握った。
/495ページ

最初のコメントを投稿しよう!