渦巻く欲望

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抱きつく私の手から、隆二さんが手紙をするりと抜き取った。さっきから、私たちの間でキャッチボールされてる紙っぺら。 『こうなること…予想してたんですね…』 「…ちょっとシナリオとは違ったけど……手紙って発想もなかったし…」 言葉は、文字になるとさらに陰湿さを増す。 昨夜、隆二さんは私にこれから起こり得るかもしれない問題を予想して、話をしてくれた。相手が誰とは明かさなかったけど、それは私たちがしばらく離れなくてはいけないかもしれないという内容だった。最悪の場合、偽装離婚って形をとるって。 なぜ私たちがそんな事をしなくちゃいけないのか。意味が分からなくて。ただ、今関わっている仕事が少し厄介で、私に迷惑をかけるかもしれないからって事しか教えてくれなくて、そんな理由じゃ私は到底納得なんてできなかった。 偽装だろうが何だろうが、隆二さんと離れるなんて考えられないから。だから、嫌だと首を横に振る私に、隆二さんは何度も謝ったんだ。 「…しかし……何度見てもすげぇ内容の手紙」 『…ね、冷静になって見返すとすごい事書いてあるって分かる』 “彼とのセックスは最高”の文字。 私は抱きついたまま、横から顔を出してワザと明るい声を出した。 『ほんとにやってないでしょーね?』 「は?」 だって、reiさんは最初私の事を気に入ってたけど、いつの間にか商品としてみるようになった。それに、邪魔だった隆二さんは今や協力者で、しかもreiさんに惚れてる設定。 彼女の恋愛対象は女性だけど、身体的な欲求を満たす対象は女性だけとは限らないじゃない。 「……お前さぁ…」 隆二さんの声がぐっと低くなった。呆れるような眼差しも、付いてきた。 「俺はお前以外に中出ししたことねぇよ」 『なっ…なかっ……言葉にしないでよっ…』 「なんでだよ」 だって、生々しくてちょっと恥ずかしいじゃない。しかも、さっきだもん。 「……じゃあ…」 『え?』 隆二さんがくるりと身体を回転させ、その勢いのまま私を押し倒した。 『え?』 私を見下ろす彼は、艶やかな全身で誘ってくるから、その誘いに簡単に乗ってしまうんだ。 「…もう一度しよっか」 彼が悪戯っぽく唇を動かした。“な か だ し” って。 とんだ誘い文句だ。 『もぉ~…』 隆二さんは手紙を床にほっぽり投げて、さっきと同じようにうっとりするようなキスをした。
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