相当な女

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「本当にいい男って、結婚してるか仕事ばっかりしてるかどっちかよね」 少し前にサナがそんな事を言っていた。全ての男に当てはまるわけじゃないって分かるけれど、私の周りにいる男たちは、見事に当てはまっている。 久砂さんや宗正くんは、仕事ばっかり。 隆二さんも、もちろん仕事ばっかり。だけど、それ以上に私をくすぐり甘やかすのが上手。 彼が私の夫だなんて、今でも信じられなくなる時があるけれど、今のところ隆二さんに別の女の影は感じられない。 結婚しているけれど、そんなの関係なく我儘に突っ走るのが隆二さん。結婚したらしたで、興味を持たせ続ける大変さがあることに私は最近気がついた。 『ねぇ隆二さん、外で待ち合わせしよ』 マンネリはいけない。 、 、 夜桜見物の前にデパートのコスメカウンターに寄って、春の新作だというリップを買った。 少し青みがかったピンク色。見たことのない色だって隆二さんは気がつくかな? 腕時計を確認して、15分の遅刻で待ち合わせのブラッスリーに向かう。 彼を待たせられるのは私の特権。その間、私の事だけを想うじゃない?そうやって期待値を上げてあげるの。決してしつこいナンパをうまくあしらう事ができなくて遅れたわけじゃない。 通りの向こうには、テラス席に座っているだけなのに絵になる男。言い寄られていたシーンを見ていないことを願いつつ、私はその男に近づいた。 私に気がついた彼は、相席でもしていたのか、隣に座る男性に二言三言話をしてから席を立った。 その瞬間、周りにいた女性たちが色めき立ったのが分かった。我先にと声を掛けようとするひともいる。 そんな女性たちを蹴散らすように、隆二さんは私のもとに一直線。つま先がぶつかる距離で止まり、私の首に巻かれているストールを整えながら、唇に視線を落とした。 「……いい色。似合ってる」 『気づきました?さすが!さっきね、買ったの』 首を傾げて微笑む彼は、今夜も完璧なまでに妖しい色気を放つ。 『あ、髪の毛…』 隆二さんの肩についた髪の毛を払うために上げた左手。薬指には、特大のダイヤモンド。このまばゆいばかりに光り輝くダイヤを突き返したくなる日がきたりするのか。 一生くることはない。 だって考えてもみてよ。この獲物を捕らえるような瞳から、逃げられるわけないもの。
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