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「……相談案件かも」
『え?』
「…shinとの事……隆二に話した方がいいかも」
二丁目で恋敵の男性について声を潜めて話す私たち。なんて滑稽だろう。だけど、そこには純粋な恋心が存在している。
その秘めた恋心を、暴露という形で言ってしまってもいいのか…。私が言ってしまうことで、二人の間には埋められない溝ができてしまうかも…。
“shinは女に興味ない”
隆二さんは、shinさんのセクシャリティを知っている。だけど、その矢印が自分に向いていることに気が付いていない。それだけshinさんが言動に気をつけてきたってこと。
時計の針が進むにつれて、店内も賑やかになってくる。細やかな接客を繰り返すハジメさんを目で追いながら、私は店内をぐるりと見渡した。
今夜もマイノリティたちが集う。隣に座る久砂さんに注がれる熱い視線で、その割合を知る。
『ねぇ久砂さん』
顔を近づけ、内緒話の準備。久砂さんは ”ん?” という感じに片眉を上げて、耳を近づけてきた。
『カミングアウトのタイミングって…どれくらいなんでしょうか?』
久砂さんは、顔を動かさずに視線だけをぐるりと回し、”ここにいる人たち?” と聞いてきた。彼なりの配慮。だから私も小さく首を縦に振った。
「タイミングは人それぞれだろ。どちらかと言えば、カミングアウトしないんじゃなくて、できない人のが多いかもな」
『それってやっぱり…』
「”あれ、もしかして自分…”って気づく時って、服の好みだったりするだろ?あとは、”恋心” 。身近な人に抱く感情で気がつくんだよ」
『はい』
「好きな人に嫌われたくない。そう思うだろ?だから言い出せない。身近なほど、言い出せないかもなぁ」
だから、と久砂さんは続けた。
「分からないんだよ。なんで茉莉花に嫌がらせするのか。隆二が大切にしているものを壊したら、どうなるかくらい分かるだろ。それなのに…」
それは男性的な思考。
『恋敵に嫌がらせ…。その心理、私は分かります…』
女はみんなそう思うんじゃないかな。どんなに綺麗事を言ってても、好きな人を手に入れたいと心の奥底では思っている。
shinさんは、女性的思考の持ち主。
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