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「今日 隆二は?」
『お仕事です』
「あぁ……アッチ?」
久砂さんが人差し指を上に向けた。
“7階の店?” って意味。
『はい、アッチです』
「案内人楽しんでるよなぁ…客にバレないのが不思議だよ」
ほんと、私もそう思う。真っ黒なマントで全身覆われて肌を一切見せていないけれど、強烈に惹きつけられるあのオーラ。
隆二さんに惹かれるのは至極真っ当なこと。
そこに性別は関係ない。だからこそ、shinさんのことは相談案件じゃなくて、私が個人的に解決しなくちゃいけない問題なのかも。
彼らの間には “友情” もあるから。
『……ふぅ…』
小さく息を逃す。
「あら、今度はなぁに?」
ハジメさんが目の前にやってきた。
「旦那がモテ過ぎて困るって話ですよ」
久砂さんが苦笑しながら話すと、ハジメさんは不思議な顔をして私に対して顔を傾けた。
「な~んで困るのよ?そんなの分かりきってたことじゃない。それに、隆二が忙しくしてるから貴女はこ~んなイイオトコとデートができる」
『いや、デートでは…』
「デートよぉ。楽しんだらいいじゃない。オトコとオンナ、楽しんだ者勝ちよ。隆二だってそうしてるわよ、きっと」
『え?』
私は弾かれたように顔を上げた。ハジメさんが小指を立てながら唇を中指でなぞる。
『それってどういう…』
「だめよ、だぁめ。アタシ口は堅いの」
私がもう一度口を開こうとしたら、隣から久砂さんがハジメさんに向かって手を伸ばした。
口元にあった手を掴んで自分の方へ引き寄せて、想像を掻き立てような手つきでその指を弄んでから、表情のスイッチを入れた。
「ね、ハジメさん?俺たちの秘密にしましょうよ。それならいいでしょ?」
「………アタシ………いいオトコには弱いのよねぇ。じゃあ教えてあげる。いい?秘密よ?」
ハジメさんは最初から話す気満々だったように、私たちを寄せ集めて重大な発表をするかのように眉をひそめた。
「……隆二、来てるわよ」
『……え?…どこ…』
「この辺り。最近頻繁に出没してるって噂になってるの」
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