怪しい夜の歩き方

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トン……トン……トン……トン…… 隆二さんと待ち合わせをしているレストランからほど近いホテルのラウンジで、私は窓際のソファ席に座り腕を組んだ。その指先が二の腕の上で規則的なリズムを奏でている。一つひとつ問題をクリアにしていくために。 ガラス越しに広がる空は、私の心を映し出したようにどんよりとしている。 『あ………雨……』 ポツリポツリ、ガラスに雨粒が模様を描いていく。 雨が降るなんて一言も言ってなかったのに。 ……最悪。色々、最悪。 shinさんとの話し合いは、正味15分てところだった。 隆二さんの話をして、今日ケータリングを頼まれていたスペイン大使館の話とか、スペイン料理の話とか。スペインのバスク地方にある、サン・セバスチャンというリゾートタウンは、”世界屈指の美食の街”と言われていること。星付きレストランが密集していて、旧市街でバル巡りなんかもオススメだと教えてくれた。 「ハネムーンで隆二に連れてってもらいなよ。情熱の国、二人にぴったり」 shinさんは饒舌だった。嘘のない話の内容。私の失礼極まりない質問も、豪快に笑い飛ばしてくれた。 だから今、私はこうして出口のない迷路に迷い込んでいる。 『…………はぁ…』 雨は勢いを増しているように見えた。レストランまではタクシーで行こう。目の前のテーブルに置かれたロンググラスのカクテルの中で、氷が揺れて繊細な音が響いた。 shinさんは、ノーマル。 隆二さんは友人。それ以上でもそれ以下でもない。 女に興味が無いっていうのは、女を構っている暇が無いってことだって。好きなのは女性。 タイプはよく食べる、少しふくよかなひと。 二丁目は行ったことは無いという。仕事でも、請け負った事は無いという。 ……ダメ。分からない。 お腹が空いてるから、余計に頭が回らないのかも。 shinさんから頂いたピンチョスは久砂さんに持って帰ってもらったし、その久砂さんは同伴の時間が迫ってるといって、慌てて帰っていった。 “的外れな推理しちゃったな”っておどけながら。 私は、少し早いけどレストランに向かうことにした。先に入って隆二さんを出迎えよう。 ちゃんと、笑顔で。
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