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私は意を決してデパートに向かって駆け出した。
っていっても、走る想定なんてしていなかったから、足元は不安定。結局、走っているかのように見せかけた徒歩でデパートに向かった。
私と同じようにハンカチで身体を拭く人、荷物を拭く人たちで入口付近は込み合っていた。ハンカチをしまい、スマホを取り出そうとしたら、タイミングよく着信が入った。
相手はもちろん隆二さん。
『もしもし』
(……茉莉花?)
いつもと変わらない、落ち着いた声。
(店着いた?)
『……ううん、隆二さんは?』
私は腕時計に視線を落とした。待ち合わせの10分前。
(……悪い、今になって外せない用が入って…別の日で埋め合わせする)
………今に…なって…?
(……ごめんな)
『……ううん、大丈夫。隆二さん大変だね』
(いや……店はキャンセルしておくから)
『今からキャンセル出来る?…サナでも誘って私行こうかな…?』
(いや、できる。大丈夫。サナさんとはまた別で予定立てな、予約取ってやるから)
こんな時、隆二さんなら絶対に先にサナに連絡して、私のところに向かわせてくれたはず。前にもそんな事あったもん。それなのに、今は別日にしろっていうの。
そうだよね。だって、もう予約はキャンセルされているんだもん。……数時間前に。
『……隆二さん』
(……ん?)
『”外せない用事”はどれくらいかかる?そんなにかからないなら、待って…』
(いや、ちょっと遅くなる)
『……そっか。じゃぁ…ふらふらしてから帰る』
(……ごめんな…)
、
「それは隆二さんらしくな~い」
『でしょ?!おかしいの!!なんかもぉ色々おかしいの!!』
デートをドタキャンされた私は、隆二さんと電話を切った次の瞬間、サナに連絡を入れた。
一時間後に待ち合わせをして、これまでの経緯を息つく暇もないほど一気に喋り倒した。
「じゃあ~とりあえず隆二さんの怪しい言い訳は置いといて、その疑惑の店に行ってみようよ。私二丁目って初めて~!どうする?鉢合わせしちゃったら」
『………闘う』
「ちが~う、隆二さんと鉢合わせ!」
『た、闘う…』
どころの騒ぎじゃない。
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