9555人が本棚に入れています
本棚に追加
/495ページ
ハジメさんのお店で捕まえた女子二人組に聞いたお店が今夜の試合会場になる。
それは何故か。答えは簡単明白。隆二さんのスーツから漂ってきた淫な香りと、二人組からふわりと舞った香りが同じだったから。
隆二さんの通い詰めてる店だと女の勘が働いた。だから店名を聞いて、今こうして目の前にいる。
本当は隆二さんと一緒に来て彼の反応を見たいところだったけど、致し方ない。今日は敵陣の情報収集、そしてジャブくらい打ってやろうと思う。
それに、酔っ払った私にキスしてきた相手からも同じ匂いがした。だから私はキスの相手を隆二さんと間違えたの。
ここが分からない。一体誰なのか。隆二さんが嘘をついているだけで、本当は私にキスをしたんじゃないかって考えることもできる。
じゃあ、嘘をつく理由は?
分からない。真実の周りで嘘がグルグル回る。
「早く入ろ~!靴が濡れちゃう」
サナに背中を押されるかたちで私たちは店内に入った。
「す、すご~い!」
『ね、……なんていうか…”淫靡な世界観を表現してみました”的なキャッチコピーがつきそうなお店…』
料理に力を入れている店なんて聞いていたから、勝手に落ち着いた小料理屋みたいな店内を想像していた。だけど、目の前に広がるのは、真っ赤な壁に鎖やらロープが吊るされていて、精神に訴えてくるような抽象画が飾られた異様な雰囲気の空間だった。
THE CLUBがセンスの塊だとしたら、こちらは一言でいえば悪趣味の宝庫。
コレクションケースの中には、久砂さんがプレゼントしてくれたみたいな大人の玩具が”これでもか!”と並べられてて目のやり場に困るし、壁からは、男性器そのままの形をしたハンガーラックがニョキっと何本も反り立っていて、そこに客のジャケットやコートが引っかかっている。
男性が見たら、思わず股間を手で覆いたくなっちゃうんじゃないかって思うくらい滑稽な姿。
「いらっしゃいませ」
「『ひぃっ…』」
妖しい色をした懐中電灯で自分の顔を照らしながら店員がやってきた。
「二名様ですか?」
『はい、あの…初めてなんですけど…』
「大歓迎です。アウターやお荷物はそこにお掛け下さい」
案内されたのは、あの個性的なハンガーラック。
この店こそ会員制にしなきゃダメだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!