渦巻く欲望

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渦巻く欲望

隆二さんもう向かってるかな…。 タスケさんの手伝いが終わったとも、終わらないとも何の連絡もないまま、待ち合わせの30分前。 私はホテルのロビーでタクシーを待ちながら、隆二さんとのメッセージのやりとりを見返していた。 《気合い入れてこいよ》 《うん、見惚れちゃうかもよ》 《期待してる》 こんなやりとりをしていたのはお昼を少し過ぎた頃。それから会話はプツリと途切れている。 私もshinさんとのことは伝えてないし、隆二さんもきっと仕事が忙しい。 タクシーの到着を知らせるホテルのスタッフがやってきた。 『………ふぅっ…』 私は気合いを入れるために小さく強めに息を吐いて、スマホをバッグにしまい込んだ。 エントランスから見上げた空は、吸い込まれそうなほど真っ黒。ラウンジから見た時より、雨足が忙しそう。 、 『…………え?』 「19時からご予約の井倉様でございますが、本日はキャンセルと伺っております」 ……え? 『……キャンセル…』 「はい、そのように」 何度も何度も予約者リストを確認してもらったけれど、”井倉様" の予約は今から数時間前にキャンセルされたんだという。 私の頭には、無数のはてなマークが浮かんだ。 え?隆二さんから連絡あった? 私は急いでスマホの中のありとあらゆる連絡網を確認した。だけど、それのどこにも彼からの連絡は、ない。 「……あの…」 『あ……そうでした、すみません。私の勘違いで…予定変更したんです』 ……だいぶヘタクソな演技になってしまった私の嘘。きっと笑顔はぎこちなくて引きつってるはず。だけど、レストランのスタッフはとても感じの良い笑顔で頭を下げた。 私は、迷惑をかけた事を謝って、弱まる気配を全くみせない雨空を見上げた。 『………傘…』 買わなくちゃ。幸い目と鼻の先にはデパートがある。そこまで走って、傘を買って、隆二さんに電話をしよう。 何かあったのかもしれない。私に連絡できない “何か” が。
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