奇貨居くべし

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 浩司と真由子は付き合って5年、同棲を始めて2年が経っていた。最近の真由子の口癖は「今年で30だわ〜」だった。これは暗に結婚をせがまれているのだと浩司も分かってはいたが、浩司は現在派遣社員として働いているので自分でも将来が見えない状態だった。30になると言うのにボロい安アパート暮らしで貯金も殆ど無い。生活費も真由子に助けてもらっている。それなのに家庭を持っていいものかと悩んでいた。  しかし2年も一緒に暮らしていれば家族も同然だ。結婚すると言ってもただ書類上の事だけで今までとそんなに変わる訳でも無い。それで真由子が納得するのなら男らしくケジメを付けようと浩司は腹をくくった。  決意した浩司はなけなしの貯金を下ろし指輪を買うべく宝石店を訪ねた。どれも綺麗だがとにかく高い。自分の手持ちの金額で買えそうな物はやはりそれなりの物しか無かった。  何軒か回ったが何処にも手の届きそうな物は見つからない。やっぱり自分には無理なのかと諦めかけていた時、一軒のリサイクルショップに目が止まった。  そう言えばこう言う店にも指輪は売っている。他人のお古だが安く買える。そう思った浩司はリサイクルショップに入った。  店のガラスケースの中には宝石店の新品となんら変わらない商品が並んでいた。それも『0』がひとつ少ない物が。 「何かお探しですか?」  店員がにこやかに声を掛けてきた。 「気になった物があったらお出ししますよ」 「えっと、指輪を探してるんですが」 「プレゼントですか?」 「ええ……まあ……」  店員はガラスケースの鍵を開けてくれた。
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