奇貨居くべし

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 店員によるとこの指輪の元の持ち主は決してお金に困ってこの指輪を売ったのでは無いと言う。実際資産家の奥さんで、他にもたくさん宝石類は持っているそうだ。資産家に嫁ぎ何不自由無く暮らしていたが夫に先立たれてしまった。ところが遺産が入り、尚一層裕福になったと言う。  そんな女性が再婚する事となり、さすがに前夫から貰った婚約指輪を手元に置いておくのは気が引けると、この指輪だけを手放す事にしたそうだ。その女性の再婚相手は亡き夫よりも更に資産家だそうで、女性はより裕福になったそうだ。 「この指輪は福の神が付いているんですよ、きっと。とても縁起の良い指輪です」  そんな話を聞いたら他の指輪なんてどうでも良くなってしまった。この指輪が欲しい。他の誰かに買われる前に買ってしまいたい。 「クリーニングもしてありますので綺麗ですよ。ケースは新品ですのでご安心下さい。でもこの指輪、新品で買った当時はきっと『0』が2つほど多かった事でしょうねぇ……」  これは買うしか無いと、浩司はすぐに店員に指輪を包んでもらった。  財布からお札を出す時はさすがに震えた。これでまた貯金0になってしまう。でも一生に一度の真由子へのプレゼントだ。ここでケチったら男じゃ無い。また2人で頑張れば良いのだ。  ここが人生の節目と浩司は支払いをした。
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