奇貨居くべし

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「まさか自分の家が持てるなんて思ってもみなかったよ」 「本当ね」 「真由子のお父さんには感謝しかないよ。ありがとう」 「何言ってるの。これから返済と子育てと、たくさんお金が掛かるのよ。パパ、頑張ってね!」 「うん、頑張るよ」    しばらくして無事に子どもは産まれた。浩司と真由子の良いところだけを取ったような、とても可愛くて愛らしい子どもだった。  浩司の仕事も順調で、上司からの評価も良くボーナスも思ったよりもたくさん貰えた。  少し前まで将来も見えなかった浩司だったが、今は将来が楽しみで仕方が無かった。子どもの成長は勿論、仕事も楽しかった。退職したら夫婦で旅行にでも行きたいな、などと、夢で溢れていた。  急にこんなに幸せになれたのもあの指輪のお陰なのかもしれない。やっぱり買って良かった。浩司はしみじみと思った。  ささやかだが人並みの生活が送れるようになって数年。子どもがもう1人増え、浩司も責任ある仕事を任されるようになっていた。  真由子は専業主婦として家事育児に専念していた。もともと気の強い性格だったが、母親となりさらに強くなった。まあその強さに浩司はいつも励まされ支えられて来たのだが、最近は少々うんざりするようになってきていた。 「ハパ、幼稚園のお受験させるから塾に通わせるわね。月謝おねがいね」 「ええ、まだこんなに小さいのに塾?」 「小さいうちから努力しないとちゃんとした大人になれないもの。間違っても派遣になんてさせたくないでしょ?」  そう言われると何も言えない。浩司は子どもたちの事は全て真由子に任せ、自分はただひたすら労働に徹した。
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