奇貨居くべし

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 子どもたちも無事有名私立幼稚園に合格し、順調に成長した。浩司は自分よりも(かしこ)そうに見える子どもたちに引け目を感じながらも、それでも「パパ!」とまとわりついてくる我が子にとても愛おしさを感じた。  幼稚園に合格したとしてもまだまだ先は長い。大学卒業するまでいくらかかるんだろうとため息をつきながらも子どもたちの将来を楽しみに仕事に励んだ。  そんな時だった。浩司は過労運転で事故を起こしてしまった。幸い単独事故だったので加害者がいなかったのは不幸中の幸いだった。  浩司は今ICUで生命の危機を迎えていた。 「パパ、パパ!」  薄れゆく意識の中、真由子や子どもたちの声が聞こえた。突然こんな事になってしまったが、浩司は満足だった。まさか自分がこんな人並みの、いやそれ以上の生活が送れるとは思ってもいなかった。最期は仕事も家族も無く寂しく1人で死んでいくものだと思っていたが、今自分のために悲しんでくれる家族がいる。家族に見守られ最期を迎えられるなんて自分は最高に幸せ者だと思いながら、浩司は息を引き取った。  一家の主を亡くした真由子たちだったが、浩司の事故は過労によるものであると認定され、たくさんの給付を受けた。住宅ローンも保険に入っていたので契約者死亡のため返済免除となった。浩司が入っていた生命保険も下り、真由子は一躍億万長者となった。  しかしお金があっても2人の子どもをかかえ、真由子はどうやって生きていこうかと途方に暮れた。
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