名も知らぬ花

1/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
くそったれ。 仕事をクビになった帰り道、吐き捨てるように呟いた。 だがわかっている、会社が僕の事を捨てたくて捨てた訳じゃない。かといって自分が捨てられるほどに無能だった訳でもない。 ただ現状を、不況、という一言で黙って飲み込むことができず、悪態として撒き散らすことが、今の自分にできる精一杯の強がりだった。 一体、どんな顔をして帰ればいいのか。幸いにも、帰り道はまだ距離がある。 このまま帰らずにネットカフェで一泊すればいいか、友人の家に転がり込めばいいか。そんな考えが右往左往してみても、先延ばししたところで結局事実は変わらないという、変わらない事実だけはハッキリと焼き付いている。 くそったれ。 そう呟くことだけが、こうして名も知らぬ野花に向かって吐き捨てることだけが、今の自分にできる事だった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!