名も知らぬ花

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────何かが足に絡まった。 それは幾度となくあてどない罵声を浴びせてきた、あの名も知らぬ白い花。その茎だった。 夜中、一糸も(まと)わず川へと向かうその道中。引き留めたのは恋人でも家族でもなく、月明かりに照らされて白く輝く、名も知らぬ花だった。 くそったれ! 怒りを込めて叫んだ。邪魔をするな。どうせ希望なんてない。必要となんてされない。僕の人生に、価値など無い。 名も知らぬ花は風と一緒に、ただ(うなず)いて聞いてくれた。 くそったれ。 絡まった茎が、中々外せない。うまくいかない。元々手先も口先も、器用ではないからな。どっちもと欲張らず、そのどちらかだけでもうまかったなら、こうはならなかったのかな。 泣き言も、黙って聞いてくれた。 くそったれ。 絞り出すように、口から(こぼ)した。全裸になってまで死のうとしたのに、草に絡まっただけで失敗し、挙げ句泣いてしまうなんて、情けない。 思えばこの花は、いつも側にいた。悲しみのどん底の時も、必死に強がって頑張っていた時も、こうして死のうとした時にも。 酷いこともしてきたというのに、ただ静かに、黙って頷いている。 頷くしかできない事はわかっている。花は喋らない。 そんな花に僕は、自分勝手に感情をぶつけて、迷惑をかけてきた。 それだのにこの花は、僕を止めてくれた。僕の思い込みだということはわかっている。 それでもただ、僕が死なない理由になった。 この花を好きになる理由になった。
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