葛藤

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「あれっ、柊哉が先に起きてるなんて珍しいー」 朝から(せみ)の鳴き声が響き渡っていた快晴の月曜日、いつもよりかなり早く起きて二人分の目玉焼きを作っていると、7時半頃になって二階から下りて来た菜緒さんが目を丸くしていた。 「…まあ、たまには。あと卵は目玉焼きにしたから」 俺はそう言いながら、目玉焼きを焼いているフライパンの端の方でベーコンを焼く。 「うん、ありがとう。 それにしても、朝ご飯の匂いって何でこんなに良い匂いなんだろうね」 菜緒さんが俺のすぐ隣に来て、フライパンの中を覗き込みながら小さく笑った。 そんな彼女の仕草が朝から可愛くて、だけど俺はいつも通り平然を装って、少し早くなる鼓動に気付かない振りをする。 「…菜緒さん、寝癖付いてるよ」 「あ、直して来る」 菜緒さんはその小さな頭を自分の手で押さえながら、キッチンから出て行った。 俺はコンロの火を弱くして、焼き上がった二つの目玉焼きを大皿に移し替えた。 好きになるのは本当に、こんなにも簡単なのにな…… 少し表面の焦げた目玉焼きから立っている白い湯気をじっと見つめながら、真新しい朝には少しも似合わない溜息を小さくゆっくりと吐いた。
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